日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

Filiaは胎生幹細胞特異的なDNA損傷応答とゲノム安定性の制御因子である

論文標題 Filia is an ESC-specific regulator of DNA damage response and safeguards genome stability.
著者 Zhao B, Zhang WD, Duan YL, Lu YQ, Cun YX, Li CH, Guo K, Nie WH, Li L, Zhang R, Zheng P.
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Cell Stem Cell. 16, 684-698, 2015.
キーワード ES細胞 , ゲノム安定性 , DNA修復 , 中心体 , Filia

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<はじめに>
 胎生幹細胞(ES細胞)や誘導性万能幹細胞(iPS細胞)は様々な細胞に分化する可能性を秘めており、臓器再生等の再生治療に貢献することが期待されている。ES細胞は体細胞と比較してゲノム情報をより安定に維持する必要があり、そのためのES細胞特異的なゲノム安定性維持システムが存在することが予想される。今回紹介する論文で著者らはES細胞で特異的に発現が高いタンパク質Filiaに着目し、それが関与するゲノム安定性維持機構の解析を行った。

<Filiaとは?>
 FiliaとはEcat1としても知られており、マウスのES細胞で最初に同定された。Filiaは未分化のES細胞のみで発現していることを見出された後、卵母細胞で70kDaと50kDaの2つのアイソフォームが見つかった。ES細胞では特に70kDaのアイソフォームが優勢的に機能していると考えられている。筆者らは本実験においてES細胞におけるFiliaの機能を解析するために野生型とFiliaを欠損したミュータントマウスよりES細胞を樹立して使用している。

<DNA損傷応答におけるFilia>
 まず、筆者らはES細胞特異的なFiliaのDNA損傷応答における役割がある可能性を検討するため様々なDNA損傷剤(紫外線、エトポシド、ドキソルビシン、カンプトテシン、HU)を野生型のES細胞に加えたところ、70kDaのFiliaが高発現した。その一方50kDaのFiliaは検出されなかった。マウス胎生繊維芽細胞(MEF)や間葉系幹細胞(MSC)ではDNA損傷剤を加えてもFiliaの発現に変化はなかったことからこの現象はES細胞特異的であることが示唆された。またFiliaの欠損がDNA損傷応答にいかに影響を及ぼすかを検討するためにFilia-/-ES細胞を用いてDNA損傷剤であるエトポシド添加後のDNA損傷応答系シグナルを確認した。その結果、Filiaを欠損したES細胞ではH2AXのリン酸化やATMのリン酸化が誘導されるものの野生型と比較して早くシグナルが消失した。また、ATMの基質であるChk2のリン酸化が顕著に減少していた。このことからFiliaはDNA損傷応答に必要であることが示唆された。また、FiliaのN末端発現細胞株(FK340)とC 末端発現細胞株(FK-KH)を用いてドメイン解析を行ったところ、FK340ではフルレングスのFiliaと同様にDNA損傷応答が相補されるのに対して、FK-KHでは相補されなかった。このことからFiliaのC末端がDNA損傷応答に必要であることが示唆された。

<Filiaのリン酸化とDNA損傷応答>
 以前の報告でFiliaのセリン349番目がリン酸化されるということが示されていた。そのため筆者らはFiliaのリン酸化がDNA損傷応答に及ぼす影響を検討するために、リンの349番目をアラニンに置換したFilia(S349A)とリン酸化ミミックのアスパラギン酸に置換したFilia(S349D)を発現するES細胞株を作製した。その結果、アラニン置換した細胞株はATMのリン酸化やChk2のリン酸化などは相補されたが、コメットアッセイによるDNA修復能を調べた結果、DNA修復は機能していなかった。また、リン酸化ミミック発現細胞もATMやChk2のリン酸化は相補されたが、DNA修復は機能していなかった。以上の結果からセリン349番目のリン酸化はDNA修復能に大きな影響を与えることがわかった。

<細胞内におけるFiliaの挙動>
 次に著者らはFiliaの細胞内における挙動を観察するために3X FLAGタグを付けた野生型Filia、N末端発現Filia340、リン酸化部位を置換したFiliaS349A、FiliaS349DをFilia-/-ES細胞で安定的に発現する細胞株を使用した。免疫染色でこれらの細胞を観察した結果、野生型のFiliaは中心体のマーカータンパク質である-tubulinやpericentrinと共局在していた。この共局在はDNA損傷の有無で変化はなかった。興味深いことにリン酸化ATMは野生型のES細胞では中心体への局在が見られるのに対して、Filia-/-ES細胞では観察されなかった。これらのことはFiliaがリン酸化ATMの中心体への局在に必要であることを示唆している。

<FiliaはPARP1と相互作用しDNA損傷応答に寄与する>
 さらにDNA損傷応答においてFiliaと相互作用するタンパク質を見つけるために筆者らは質量分析計を用いたプロテオミクス解析を行った。その結果、PARP1がFiliaと結合することを見出した。PARP1とFiliaの結合はマウスNIH3T3細胞でも免疫沈降法により確認でき、DNA損傷によってその結合は増加した。筆者らはPARP1阻害剤であるAG14361をES細胞に添加してATMのリン酸化やChk2のリン酸化が減少し、その影響レベルがFilia欠損ES細胞と同レベルであることからFiliaとPAPR1が共役してDNA損傷応答に機能している可能性を提唱している。

<おわりに>
 ES細胞は分化全能性を持つために通常の細胞と比較してゲノムDNAをより厳格に維持するシステムを持つことが想像に難くない。しかし、その分子制御はまだ未解明な部分が多い。本論文では新たにFiliaがES細胞特異的なDNA損傷応答に機能していることを示しており、今後周辺タンパク質を解析することにより新たな分子経路が明らかになることが期待される。