日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

G1期に相同組換えを抑制するメカニズム

論文標題 A mechanism for the suppression of homologous recombination in G1 cells
著者 Orthwein A, Noordermeer SM, Wilson MD, Landry S, Enchev RI, Sherker A, Munro M, Pinder J, Salsman J, Dellaire G, Xia B, Peter M & Durocher D
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Nature in press, 2015.
キーワード 相同組換え , G1期 , BRCA1-PALB2-BRCA2複合体 , USP11 , Cullin E3 ligase family

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相同組換え(HR)によるDNA二重鎖切断(DSB)修復は主に、S/G2期において相同染色体が利用可能な時期にのみ起こるとされ、G1期においては、姉妹染色体間の組換えが非常に低い頻度で起こるのを除いて、HRによる修復は強く抑制されている。抑制される原因としてこれまでに、
・HRに関わる遺伝子群は細胞周期に応じて発現量が変化し、S/G2期に誘導される
・S/G2期においては、BRCA1によるCtIPのリクルートにより、DSB近傍のEXO1、DNA2などによるDNA断端の切除が亢進しており、その結果BRCA2-PALB2複合体、Rad51などのHR因子がリクルートされる
・G1期において、BRCA1のリクルートは53BP1によって抑制される
などが明らかとなっている。しかしながら、G1期においてHRを積極的に抑制するメカニズムがあるかどうかは不明であった。

 本論文でDurocherらのグループは、G1期におけるHRの抑制に関わる分子メカニズムを発見したと報告している。彼らのグループはこれまでに、脱ユビキチン化酵素がDSB修復に与える影響について明らかにしてきた。今回もUSP11という脱ユビキチン化酵素を中心に、最終的にG1期におけるHR抑制のメカニズムにストーリーを展開している。以下、結果を要約すると、

 1. 脱ユビキチン化酵素USP11は、G1期特異的に、DNA損傷後、CUL4A/Bユビキチン化酵素によって分解される
 2. USP11は、BRCA2-PALB2と相互作用し、PALB2を脱ユビキチン化する
 3. CUL3ユビキチン化酵素は、KEAP1というアダプターを介してPALB2と相互作用し、PALB2をユビキチン化する
 4. BRCA1とPALB2との相互作用はPALB2のユビキチン化によって抑制される
 5. 結果、G1期のDSB損傷後においては、USP11が分解されるため、CUL3-KEAP1によるPALB2のユビキチン化が優位となり、BRCA2-PALB2の複合体はBRCA1との相互作用できなくなる

 最後に、これらのメカニズムの応用として、CRISPR-Cas9によるゲノム編集を挙げている。CRISPRによるゲノム編集の中でも特にHRを利用したノックインなどを行うには、分裂期の細胞をターゲットにする必要があった。しかしながら、今回のメカニズムを応用することで、G1期の細胞にもHRを介したゲノム編集を起こすことが可能になったと主張している。具体的な実験としては、G1に同調したU2OS細胞に、CRISPR-Cas9によってゲノム編集が成功するとmCloverが発現する系を導入し、

 6. 53BP1の欠損とCtIPの活性化変異を導入したU2OS細胞株では、BRCA1のfociは確認できるが、ゲノム編集の効率は上昇しない
 7. 上記の細胞株にさらに、KEAP1のノックダウン、あるいはPALB2のユビキチン化を抑制した変異体を導入すると、ゲノム編集の効率が劇的に上昇する

以上の結果から、ゲノム編集による様々な組織への治療応用への道が開けるのではないかと締めくくっている。

 今回の論文で、DSB断端切除以降の要因によって、G1期にHRが抑制されるメカニズムが明らかとなった。このメカニズムを辿っていくと、根源的にはCullin E3 ligaseのファミリーであるCUL4A/BがUSP11を抑制し、CUL3がPALB2をユビキチン化することで、HRを抑制していることになる。Cullinユビキチン化酵素ファミリーの酵素活性は、Nedd化と呼ばれる翻訳後修飾によって促進されることが知られているが、Nedd化を担う酵素の阻害剤MLN4924などによってHRの抑制が解除されうるのか(今回の論文中でも、MLN4924によって少なくとも、USP11の安定化が観察されている)、興味深いところである。また、今回彼らが解析したのはU2OS細胞というがん細胞株のG1期であり、分裂期にない、がん幹細胞などをターゲットとした治療への応用などの展開を期待したい。