日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

LIMタンパク質競合ペプチドによる腫瘍のG2/Mアレスト抑制と放射線増感

論文標題 A signature motif in LIM proteins mediates binding to checkpoint proteins and increases tumour radiosensitivity
著者 Xu X, Fan Z, Liang C, Li L, Wang L, Liang Y, Wu J, Chang S, Yan Z, Lv Z, Fu J, Liu Y, Jin S, Wang T, Hong T, Dong Y, Ding L, Cheng L, Liu R, Fu S, Jiao S, Ye Q
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Nat. Commun. 8: 14059, 2017
キーワード G2/Mアレスト , 放射線増感 , LIM , FHL1

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【はじめに】
細胞周期チェックポイントの分子メカニズムを明らかにすることは腫瘍の放射線抵抗性を克服する新たな治療法の開発に繋がる。CHK2、CDC25C、14-3-3εおよびCDC2は連携してG2/Mチェックポイントを制御している。平常時、CDC25CはCDC2を脱リン酸化することで細胞周期の進行を促すが、DNA損傷に応答してCHK2がCDC25Cをリン酸化すると、リン酸化CDC25Cは14-3-3εにより細胞質に隔離されて活性を失うために細胞分裂が阻害され、DNA修復のための時間が確保される。しかし、CDC25C活性が抑制される仕組みについては不明な点も多い。本論文で著者らは、LIMタンパク質の一種であるFHL1が細胞周期チェックポイントと腫瘍の放射線感受性に果たす役割について調べた。

【FHL1はCHK2、CDC25C、14-3-3εと相互作用する】
筆者らはまずFHL1とCHK2、CDC25Cおよび14-3-3εの相互作用を調べている。FHL1がCHK2、CDC25Cおよび14-3-3εのそれぞれとダイレクトに結合することが精製タンパク質を用いたプルダウン法で示された。また、FHL1が照射後に誘導され、核でCHK2と、核/細胞質でCDC25Cと、細胞質で14-3-3εと結合することをCo-IP法で見出した。さらに、タンパク質高速液体クロマトグラフィーで調べると、FHL1の溶出パターンはCHK2とCDC25CあるいはCDC25Cと14-3-3εと重なった。

【FHL1はCHK2によるCDC25Cリン酸化を促進する】
次に、FHL1がCHK2-CDC25C-CDC2経路で果たす役割を調べている。FHL1ノックダウン細胞ではCHK2とCDC25Cの結合が弱くなり、CDC25Cのリン酸化が抑制されることが示された。また、FHL1は単独ではCDC25Cをリン酸化せずCHK2によるリン酸化を促進していることが、精製タンパク質を用いたin vitro kinase assayで確認された。加えて、乳がん患者ではFHL1発現量とCDC25Cリン酸化量は正の相関を示した。

【FHL1は14-3-3εを介してCDC25Cを細胞質に隔離する】
次に、FHL1がCDC25Cの細胞内局在に果たす役割を調べている。FHL1ノックダウン細胞ではCDC25Cと14-3-3εの結合が阻害され、核に局在するCDC25Cが増加した。加えて、乳がん患者ではFHL1発現量とCDC25C細胞質局在量は正に相関した。

【FHL1はG2/Mアレストを亢進して腫瘍の放射線抵抗性に寄与する】
次に、FHL1がG2/Mチェックポイントと放射線感受性に果たす役割を調べている。FHL1ノックダウンは放射線誘導性のG2/Mアレストを抑制した。FHL1とCDC25Cを2重ノックダウンした細胞ではこのような効果が見られなかったことから、FHL1によるG2/MアレストはCDC25Cを介していると考えられる。また、FHL1ノックダウン細胞では照射後の生存率が低下することが示されたが、FHL1とCDC25Cを2重ノックダウンした細胞ではFHL1ノックダウンの効果がなくなり、照射後生存率が増加した。逆に、FHL1の発現が高い乳がん患者はFHL1低発現の患者に比べて放射線治療後の生存率が有意に低かった。

【eLIMは照射後のG2/Mアレストを阻害して増感効果を示す】
最後に、G2/Mアレストを介した腫瘍の放射線抵抗性を打破する方法について検討している。LIMタンパク質の一部には11アミノ酸からなる類似のモチーフが含まれている。このうちのいくつかのモチーフは、精製したCHK2タンパク質と結合し、FHL1とCHK2の結合を競合的に阻害した。 W/FHχψCFφCφφCモチーフ(χψは酸性アミノ酸-全アミノ酸または塩基性アミノ酸-酸性アミノ酸の組み合わせで、φは全アミノ酸のいずれか)を有するeLIMは細胞透過性があった。また、eLIMはFHL1と競合することでCHK2とCDC25Cの結合を減少させ、リン酸化CDC25Cと結果的にリン酸化CDC2を減少させた。さらに、eLIMは腫瘍細胞やヌードマウスに移植した腫瘍の照射後G2/Mアレストを阻害し、分裂期崩壊やアポトーシスなどの増感効果を促進することが示された。

【おわりに】
本研究によって、LIMタンパク質の一種であるFHL1の発現量が照射後に増加することで、CHK2依存的なCDC25Cのリン酸化と14-3-3ε依存的なリン酸化CDC25Cの核外排出が促進され、結果としてCDC25C依存的なCDC2脱リン酸化が抑制され、照射後のG2/Mアレスト誘導が促進されることが示された。G1チェックポイントを欠損する腫瘍の多くでは放射線誘発DNA損傷の抵抗性を細胞周期のG2/Mアレストによって獲得していることから、放射線照射後のG2/Mアレストに対して抑制的に働くeLIMペプチドは放射線がん治療の効果改善に有効であることが期待される。