日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

腫瘍随伴マクロファージはインターロイキン6受容体を介したシグナルを通して腫瘍細胞を低酸素の微小環境に対して抵抗性にする

論文標題 Tumor associated macrophages provide the survival resistance of tumor cells to hypoxic microenvironmental condition through IL-6receptor-mediated signals
著者 Jeong SK, Kim JS, Lee CG, Park YS, Kim SD, Yoon SO, Han DH, Lee KY, Jeong MH, Jo WS
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Immunobiology. 222:55-65, 2017
キーワード Tumor-associated macrophages , Hypoxia , Tumor microenvironment , IL-6R , STAT3

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 マクロファージは、主にM1とM2の2つのグループから構成されており、M1マクロファージは炎症応答を惹起することで細菌やウイルス感染に対する宿主防御に中心的な役割を担っている。一方、M2マクロファージは抗炎症応答や腫瘍の転移や浸潤に関与していると考えられている。このM2表現型腫瘍随伴マクロファージ(tumor-associated macrophages: TAM)の浸潤と低酸素状態は腫瘍微小環境固有の特徴である。低酸素状態の中で生存している腫瘍細胞は、多くの場合、生存力が増加し積極的に成長する傾向がある。本研究で筆者らは汎マクロファージマーカーCD68+ではなく、M2マクロファージマーカーCD206+が腫瘍組織の低酸素の周辺部位に比較的高密度に分布していることを見つけた。このことはM2表現型TAMが腫瘍組織を低酸素状況下における損傷に対して抵抗性にする補助的な役割を持つことを示す。実際に、M2型TAMと共培養させたマウス乳がん細胞FM3Aとヒト乳がん細胞由来細胞株MCF-7は低酸素状態に対して抵抗性を獲得した。この現象はインターロイキン6受容体(IL-6R)を介したシグナルと関連付けられた。
 まず、最初に腫瘍組織におけるTAMの分布を調べた。雌のC3H/Heマウスの右脇腹の皮下にFM3Aは植えつけられ、腫瘍の体積が500㎜3の時に収集された。収集された腫瘍の組織切片を免疫蛍光染色法によって調べたところ、CD68+マクロファージは低酸素でない部位に優先的に存在していたが、ほとんどのCD206+マクロファージは低酸素部位の周辺に存在していた。さらに、CD206+マクロファージの存在する部位でIL-6Rの発現が増加していることが判明した。これは、低酸素部位の周辺に引き寄せられたM2型TAMからのシグナルにより、腫瘍が低酸素域拡大の中で効率的に生き残ることができるようにしているということを示している。
 この結果を評価するために腫瘍細胞と共培養させたTAMを用意し、低酸素状況下で腫瘍細胞の反応を調べた。ヒトのM2型TAMは、分化誘導剤であるPhorbol Myristate Acetate (PMA)の存在下でヒト単球由来細胞株THP-1を分化させ、その後IL-4とIL-13で分極させることにより産生され、このM2型TAMはCD68、CD206、CD204、IL-10、TGF-βが高発現していた。マウスのTAMはFM3Aの腫瘍組織からCD11b MACSビーズを使用して分離された。低酸素状況下にさらされたMCF-7とFM3A細胞は増殖抑制と抗アポトーシス蛋白質減少によって誘発された細胞死を確認した。また、細胞死のレベルはAnnexin VとPIで標識後、フローサイトメトリーを使用して評価した。低酸素状態はPI陽性MCF-7を90%増加させ、さらに多数のPI陽性MCF-7細胞がAnnexin V陽性となった。このことはMCF-7細胞が低酸素に非常に敏感で、低酸素状況下の細胞死がアポトーシスと壊死の特徴を表すことを示している。一方、M2型TAMとの共培養によってMCF-7とFM3Aの両方が低酸素による細胞死から免れるという結果となった。
 マクロファージはサイトカインの主な発生源になり得るため、筆者らはM2型TAMと腫瘍の共培養という状況で産生されるサイトカインやその下流シグナル物質が低酸素における細胞死抑制に重要であると仮定した。この仮説を実証するために、筆者らは腫瘍とM2型TAMを単独で培養した場合と共培養の場合でサイトカインの定量をELISA法により行った。細胞単独で培養した場合よりも共培養の培地内にIL-6が豊富であることが分かった。共培養培地内のIL-6の発生源を調べるためにMCF-7細胞とM2型TAMは別々に収集し、RT-PCRとフローシトメトリーによってIL-6遺伝子の発現度を測定した結果、共培養されたM2型TAMでIL-6遺伝子の発現が増加した。
 IL-6シグナル伝達では、IL-6受容体(IL-6R)にリガンドが結合すると、IL-6Rはgp130と会合し、細胞内へシグナルが伝わる。興味深いことに、M2型TAMと共培養したMCF-7のIL-6とgp130の発現はmRNAと蛋白質レベルで増加し、この増加はFM3A細胞での蛍光免疫染色法で可視的に確認された。これらの結果は共培養されたM2型TAM内で増加したIL-6がパラクラインの機序に沿って腫瘍に作用していることを示している。
 共培養が低酸素状況の下でのMCF-7腫瘍細胞生存メカニズムを調べるために、JAK/STAT経路に着目して調べたところ、JAK1とSTAT3のチロシン残基のリン酸化(pY-STAT3)がM2型TAMと共培養したMCF-7の核内と細胞質両方で増加した。STAT3のセリン727のリン酸化はMAPキナーゼファミリーによって媒介されるので、次にMAPキナーゼ経路を測定すると、M2型TAMと共培養したMCF-7でRafやMEK、JNKのリン酸化が増加した。これらの結果はM2型TAMとの共培養はSTAT3のチロシン705とセリン727のリン酸化を誘導し、pY-STAT3の一部は核内へと移動するということを示している。
 最後に、IL-6Rを介したシグナル伝達が、低酸素誘発性のMCF-7の細胞死に対する共培養の防護効果に不可欠であるということを証明するために、MCF-7にIL-6R siRNA処理し、M2型TAMと共培養させた。IL-6R siRNA陽性と陰性でIL-6の濃度は変化がなかったが、IL-6 siRNA陽性の場合、IL-6RのmRNA発現度と蛋白質レベルが顕著に低下し、細胞質及び核のpY-STAT3を抑制した。この結果は、IL-6R介在シグナル伝達の抑制により、MCF-7細胞の低酸素誘発性細胞死に対するM2型TAMとの共培養による防護効果が失われたことを示す。
 本研究結果は低酸素誘発性の細胞死に対する腫瘍細胞の抵抗性獲得におけるTAMの役割を強調するものである。TAMが誘導する低酸素状態に対する腫瘍細胞の感受性の変化は血管新生の抑制剤による治療効果を決めるものと考えられる。さらに、IL-6は腫瘍細胞の放射線抵抗性獲得を促すということが近年報告されており、腫瘍組織内ではIL-6を介してTAMが放射線抵抗性獲得にも関与している可能性が示唆される。