日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

書評:現代人のための放射線生物学

論文標題 Contemporary RadioBiology
著者 小松賢志
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
総頁数:350ページ (本体3,500円)、2017年3月21日、京都大学学術出版会
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新刊紹介
 2017年3月21日発刊された小松賢志京都大学名誉教授の書かれた「現代人のための放射線生物学」は、「現代人のため」と銘打っているだけに、現在の分子生物学を取り入れて、本当に内容豊富な放射線生物学の教科書でもあるし、単なる教科書ではない特徴をもつ出版物だと思います。
 約半世紀前の1972年、大学院を出たばかりの私にとって、放射線生物学とは何かということを教えてくれた故近藤宗平大阪大学教授が著した「分子放射線生物学」(学会出版センター)を読んだときに感じたような、一本筋の通った放射線生物学の本だと感じました。それに匹敵する内容の教科書になっているばかりか、近藤先生の著書には、敢えて「分子」と入れられていましたが、当時はまだまだ電離放射線の生物影響については、分子レベルでは解けていませんでした。それから半世紀経ち、学問も進み、放射線感受性であるナイミーヘン染色体断裂症候群の原因遺伝子を単離した著者だけに、分子レベルの最新情報が入った放射線生物学の教科書になっていると思います。更に、一人で書かかれているだけに、書く人の哲学も出ているのが素晴らしいし、当然、若い人達の良き教科書だけではなく、研究者も手元に置きたい一冊になっていると思います。
 著者が「はじめに」に述べられているように、福島第一原子力発電所事故を踏まえて、書かれているだけに、単なる放射線生物学の教科書ではなく、教育者、医師、研究者、行政担当者、原子力や放射線の利用を心配する市民にも向けてのテキストになれるようにと、単なる放射線生物学の範囲を超えて、放射線についての広い領域をカバーした内容になっています。但し一般の人には、すこし難しい部分もあります。しかし、「解説」、「コラム」や「Q and A 」も用意されており、一般の方々も読んで欲しいという意図が随所に見られます。一般の人達にも、ぜひ購読を勧めたい放射線生物学の本だと思います。