日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

ヒト及び動物モデルの線量応答解析に基づく複合放射線場の光子等効果線量:頭頸部がんホウ素中性子捕捉療法への臨床応用

論文標題 Photon iso-effective dose for cancer treatment with mixed field radiation
著者 González SJ, Pozzi ECC, Monti Hughes A, Provenzano L, Koivunoro H, Carando DG, Thorp SI, Casal MR, Bortolussi S, Trivillin VA, Garabalino MA, Curotto P, Heber EM, Santa Cruz GA, Kankaanranta L, Joensuu H, Schwint AE
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Phys. Med. Biol. 62: 7938-7958, 2017
キーワード Boron neutron capture therapy , Photon iso-effective dose , Treatment planning , TCP , NTCP

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【はじめに】
 ホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy, BNCT)とは、あらかじめホウ素薬剤を投与したがん患者に中性子ビームを照射し、ホウ素と中性子の核反応で生じるα粒子やLiイオンを用いて腫瘍細胞を殺傷する治療方法である。体内でα粒子やLiイオンが飛べる距離は細胞1個分程度(~10μm)のため、腫瘍細胞に薬剤を集中して取り込ませれば、正常細胞にあまり損傷を与えずに腫瘍細胞のみ選択的に破壊することができる。したがって、腫瘍細胞と正常細胞が混在している悪性度の高い脳腫瘍などに特に効果的である。
 BNCTの治療計画では、吸収線量にX線治療と比べた効果比を乗じた等価線量を評価する必要がある。この効果比には、ホウ素薬剤の集積性に由来する効果比(Compound Biological Effectiveness, CBE)と放射線の線質に由来する効果比(Relative Biological Effectiveness, RBE)があり、現在の治療計画では、それらの値として限られた実験結果などから経験的に決定された一定値が用いられている。しかし、BNCTと同じくRBEの評価が必要となる炭素線治療の治療計画では、線量依存性を考慮可能な数理モデルにより計算したRBEが用いられており、BNCTでも同様のモデル開発が望まれている。そのような背景から、本稿では、近年、BNCT研究が盛んに行われているアルゼンチンで開発された新たな等価線量“Photon iso-effecitve dose(光子等効果線量)”計算モデルについて紹介する。

【光子等効果線量の定義】
 BNCTで与えられる線量は、ホウ素の中性子捕獲反応による線量、水素と中性子の弾性散乱による線量、窒素の中性子捕獲反応による線量、及び原子炉・加速器・患者体内で発生するγ線による線量の4成分に分類できる。現在の治療計画では、各成分の線量が独立して与えられたと仮定し、それぞれの線量にその効果比を乗じて足し合わせて等価線量を評価している。しかし、この手法では各成分の相乗効果(synergetic effect)が考慮されないため、評価した等価線量と同等のX線を照射しても同じ治療効果が得られるとは限らない。そこでGonzálesらは、2012年に発表した論文[1]でBNCT放射線場と等しい細胞生存率を与えるX線治療場の線量を光子等効果線量と定義した。しかし、治療計画で真に求めたい量は細胞生存率ではなく腫瘍制御確率 (Tumor Control Probability, TCP)や正常組織障害確率 (Normal tissue complication probability (NTCP)であるため、本論文では、BNCT放射線場と等しいTCPやNTCPを与えるX線治療場の線量を光子等効果線量と再定義した。

【光子等効果線量評価モデルの開発とその応用】
 治療計画で光子等効果線量を評価するためには、BNCTとX線治療におけるTCPとNTCPを統一のモデルで表現する必要がある。本論文では、これまでX線治療用に提案されてきたTCP及びNTCP計算モデルをBNCTにも適用できるよう拡張し、そのパラメータをヒトや動物モデルの線量応答解析に基づいて決定した。その結果が本論文のFig.1及び2に示されているが、いずれもモデル計算値は実測をよく再現していることが分かる。そして、決定したパラメータを用いて頭頸部がんBNCTに対する過去の臨床データを再解析し、開発したモデルが臨床研究の結果を矛盾なく表現できることを明らかにした。本論文の最大の特徴は、4種類の線量成分が混在する複雑なBNCT放射線場に対して、その治療効果や正常組織有害事象の発生頻度を光子等効果線量という1つの指標で理論的に表現することに成功した点にあり、今後のBNCT治療計画の高度化に多大に貢献すると考えられる。

【おわりに】
 BNCTの臨床研究は、従来は原子力機構や京都大学原子炉実験所(現・複合原子力科学研究所)など原子炉を保有する限られた施設でしか行うことができなかったが、近年、加速器中性子源を用いた専用施設の建設が国内外で相次いでおり、今後は数多くの大学や病院で実施可能となる見込みである。それに伴い、より多くの臨床データが蓄積され、TCPやNTCPを更に精度よく予測可能になると考えられる。我々の研究チームでも、細胞レベルのホウ素薬剤集積性から光子等効果線量を推定するモデルを開発しており[2]、今後、Gonzálesらの提案するモデルと相互比較することにより、その計算精度を向上させたいと考えている。

【参考文献】
[1] González SJ., and Santa Cruz GA., The photon-isoeffective dose in boron neutron capture therapy. Radiat. Res. 178: 609–21, 2012.
[2] Sato T, et al. Microdosimetric Modeling of Biological Effectiveness for Boron Neutron Capture Therapy Considering Intra- and Intercellular Heterogeneity in 10B Distribution. Sci. Rep. 8: 988, 2018.