日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

放射線曝露癌細胞由来TREX1感受性IFN刺激性二本鎖DNAによるエキソソームを介した樹状細胞の活性化

論文標題 Exosomes shuttle TREX1-sensitive IFN-stimulatory dsDNA from irradiated cancer cells to DCs
著者 Diamond JM, Vanpouille-Box C, Spada S, Rudqvist NP, Chapman JR, Ueberheide BM, Pilones KA, Sarfraz Y, Formenti SC, Demaria S.
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Cancer Immunol Res. 6(8): 910-920, 2018.
キーワード Cytosolic DNA , radiotherapy , STING , tumor-specific T cells , vaccination

► 論文リンク

【はじめに】
 癌治療において抗腫瘍免疫応答の誘導を目指した治療戦略が注目されている。放射線による抗腫瘍免疫応答の一つとして、照射野外の遠隔部位の腫瘍が縮小するアブスコパル効果が知られている。これまでに著者らは、放射線と免疫チェックポイント阻害剤の併用処理によるアブスコパル効果には放射線曝露癌細胞における細胞質の二本鎖DNAの蓄積が重要なイベントであることを報告している [1]。癌細胞由来二本鎖DNAは細胞質の二本鎖DNAセンサーであるcyclic GMP-AMP synthase (cGAS) を介して腫瘍領域の樹状細胞を活性し抗腫瘍免疫応答を誘導するが、放射線曝露癌細胞由来二本鎖DNAが樹状細胞まで輸送されるメカニズムは不明である。近年、タンパク質や核酸等の生体高分子を内包する細胞外小胞エキソソームが細胞間コミュニケーションにおいて重要な役割を果たすことが示されている。エキソソームの分子プロファイルは分泌細胞の分子プロファイルを反映することから、著者らは、放射線曝露により起こる癌細胞の分子変化がエキソソームに反映され、それによりエキソソームを介して抗腫瘍免疫応答が誘導される可能性を考えた。そこで本論文では、放射線照射による抗腫瘍免疫誘導機構を放射線曝露癌細胞由来エキソソームおよび二本鎖DNAに着目して検討を行った。

【主な結果】
 まず、エキソソームのプロテオーム解析を行ったところ、X線に曝露されたマウス乳がん細胞TSA由来エキソソーム (RT-TEX) 特有の経路として樹状細胞の活性化および抗腫瘍T細胞のプライミングに関わるI型インターフェロン (IFN) 経路が含まれていることが明らかになった。そこで、樹状細胞の活性化に及ぼすRT-TEXの作用を解析したところ、RT-TEX処理樹状細胞では共刺激分子であるCD40、CD80およびCD86の細胞表面発現の増加ならびにIFN-βの産生が確認された。この現象はcGAS下流の分子stimulator of IFN genes (STING) を欠損した樹状細胞では観察されなかったことから、RT-TEXによる樹状細胞の活性化に二本鎖DNA-cGAS-STING経路が関与している可能性が示唆された。そこで、DNA分解酵素TREX1とRT-TEXの免疫賦活作用との関連を解析したところ、ドキシサイクリンによりTREX1のcDNAをTSA細胞に形質導入することで、エキソソームに含まれる二本鎖DNA量が減少するとともに、RT-TEXの免疫賦活作用が減少することが明らかになった。
 次にin vivo におけるRT-TEXの免疫賦活作用を評価するために、非照射TSA細胞由来エキソソーム (UT-TEX) またはRT-TEXのワクチンをマウスに投与後、TSA細胞をマウスに接種し、腫瘍の生着・増殖を評価した。UT-TEXおよびRT-TEX投与群では、ワクチン未投与群と比べて腫瘍の増殖が遅延し、特にRT-TEX投与群では6匹中2匹において腫瘍が生着せず、また残りのマウスにおける腫瘍の増殖もUT-TEX投与群と比べてより顕著に遅かった。RT-TEX投与により腫瘍の増殖遅延が観察されたマウスの腫瘍領域にはCD8陽性T細胞が多く存在していたことから、最後にRT-TEX投与マウス由来T細胞のTSA細胞に対する抗腫瘍応答性をin vitroで評価した。その結果、RT-TEX処理によりTSA細胞特異的なCD8陽性T細胞が誘導されることが明らかとなった。

【まとめ】
 本研究結果から、放射線照射による抗腫瘍免疫誘導機構として、エキソソームを介した放射線曝露癌細胞由来二本鎖DNAによる樹状細胞の活性化経路が明らかとなった。また、放射線による抗腫瘍免疫応答の誘導においてエキソソームが免疫活性に加え腫瘍の情報を伝える重要なメッセンジャーとして機能していることが示唆された。
 本論文はエキソソームを応用した新しいワクチン療法の開発やエキソソーム含有物が放射線治療後の抗腫瘍免疫応答の予測因子になりうる可能性を示した興味深い報告である。

【参考文献】
Vanpouille-Box C, Alard A, Aryankalayil MJ, Sarfraz Y, Diamond JM, Schneider RJ, Inghirami G, Coleman CN, Formenti SC, Demaria S. DNA exonuclease Trex1 regulates radiotherapy-induced tumour immunogenicity. Nat Commun. 8:15618, 2017