日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

書評:放射線の影響がわかる本(2020年改訂版)

論文標題
著者 「放射線の影響がわかる本」改訂版作成編集委員会
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
総頁数:113ページ (ウェブ公開のみ)、2020年10月改訂、公益財団法人 放射線影響協会
キーワード 放射線 , 放射能 , 被ばく影響 , 発がん , 被ばく事故

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【本書全体の概要説明】
 本書は放射線及びその影響、防護について、客観的事実に基づいた国際的な共有認識を一般の方々に分かりやすく説明した書籍である。放射線の物理化学的性質の説明に始まり、市民生活における被ばく、人体影響、がんと放射線被ばくの関係性、経世代影響、職業被ばく、過去の放射線に関する事故について網羅的な解説がなされている。また、改訂により国際放射線防護委員会(ICRP)、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)による最新の知見が反映され、福島第一原子力発電所事故についても現在までの研究結果を分かりやすく解説している。

【内容のご紹介】
 1章「放射線の正体」および2章「さまざまな被ばく」では、放射線の基礎的な知識の紹介、および宇宙線や大地からの自然放射線、食物中の放射性同位元素による日常的な被ばくと医療被ばくについて、日本と他国の状況を比較しながら紹介されている。3章「放射線の人体への影響」では、人体に放射線があたると何が起こるかについて、細胞と組織・臓器レベルに分けて被ばく線量ごとに紹介されている。放射線被ばくによる影響として“がん”が最も重要なリスクであると考えられている。そこで、続く4章から7章では放射線影響と発がんについて解説されている。4章「がんとはどのようなものか」では、日本および世界におけるがんの統計データが紹介され、さらにがんの性質について言及している。5章「がんはどのようにしてできるのか」では、遺伝子変異と発がんの関係について自動車のアクセスとブレーキを例に分かりやすく解説されている。また、多段階発がんモデルや、がんの要因として喫煙やウイルス・細菌感染、食生活などを紹介し、WHOが提唱するがん予防のために日常生活で実践すべき5つの健康習慣(禁煙、節酒、運動、食習慣改善、適正体重の維持)について簡単な説明がなされている。6章「放射線とがんの関係」では、広島・長崎の原爆被爆者の疫学調査の結果を中心に、白血病および固形がんについて被爆との関係や線量依存性について紹介し、また、低線量・低線量率被ばくの影響についても触れている。7章「遺伝・妊娠・出産と放射線との関係」では、経世代影響についてヒトでは確認されていないことが説明されている。また、妊娠中の胎児への放射線影響について詳細な説明がなされている。これらの放射線影響は8章において総括している。9章「放射線の利用と管理」では、放射線利用施設での被ばく管理について、どのような指針に則り運用されているのか紹介されている。また、原子力施設付近に居住する住民への影響や医療従事者、非破壊検査の作業者の被ばく状況についても紹介されている。10章「放射線被ばく事故」では、1945年から2007年までの被ばく事故の件数が紹介され、原子力利用に伴う事故としてチェルノブイリ原発事故、福島第一原子力発電所事故、およびJCO臨界事故について詳細が説明されている。また、後半では放射性同位元素の利用に伴う線源紛失事故について紹介されている。

【まとめ】
 本書は一般市民向けであり、各項の説明は非常に理解しやすい。また、本文で紹介しきれないトピックについてはコラム欄にて解説がなされ、読者の理解を進めている。放射線の人体影響は一般の方々が最も関心を持つトピックであるが、本書は人体影響の解説に留まらず、その基礎となる放射線の性質や今日の防護体系を形成するに至った調査や経緯について詳細な説明がなされている。これにより、もし福島第一原子力発電所事故のような原子力災害が今後発生した場合にも、読者自身が現状把握に至る知識が得られる構成となっている。