日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

LRRC31はDNA修復抑制ならびに乳癌能転移に対する放射線治療効果を増強する

論文標題 LRRC31 inhibits DNA repair and sensitizes breast cancer brain metastasis to radiation therapy
著者 Chen Y, Jiang T, Zhang H, Gou X, Han C, Wang J, Chen AT, Ma J, Liu J, Chen Z, Jing X, Lei H, Wang Z, Bao Y, Baqri M, Zhu Y, Bindra RS, Hansen JE, Dou J, Huang C, Zhou J.
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Nat Cell Biol. 22, 1276-1285.2020
キーワード Breast cancer brain metastasis (BCBM) , DNA damage repair , nanoparticle

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【背景・目的】
 乳癌脳転移(Breast cancer brain metastases; BCBMs)は予後が悪い悪性腫瘍である。BCBMsに対する治療法は放射線治療が主となるが、その効果は限定的である。よって、BCBMsの克服にむけた放射線治療効果の大幅な改善が求められている。そのために、BCBMsの放射線感受性を決定する機能因子を同定し、これらを制御する新たな治療アプローチが必要である。
筆者らは、BCBMsのDNA修復を抑制する働きを持つ遺伝子を網羅的解析により同定し、これらを活用した放射線治療の有効性について検証した。

【(主な)結果】
 ゲノムワイドCRISPRスクリーニング法で、BCBMsモデルであるMDA-MB-231-Br-HER2細胞(231BR細胞)の放射線感受性を生み出す遺伝子の探索を行い、Leucine-Rich Repeated-Containing protein 31 (LRRC31)を同定した。231BR細胞の放射線抵抗性は、LRRC31ノックアウトにより増加し、LRRC31過剰発現では低下した。これら細胞レベルの放射線感受性は、Xenograftモデルの個体生存率に反映され、LRRC31はBCBMsのDNA修復機構を抑制し、放射線誘導細胞死を促進する役割があることが明らかとなった。
 LRRC31を過剰発現した細胞では主に非相同末端修復(NHEJ)活性が著しく低下しており、DNA二重鎖切断(DSB)の頻度が上昇した。免疫沈降-MS解析法によるLRRC31の相互作用タンパク質(40kDa以上)の網羅的解析から、NHEJ経路に関わるKu70、Ku80、またataxia telangiectasia mutated and RAD3-related (ATR)、MutS homologue 2 (MSH2)と特異的に結合することが分かった。LRRC31は522アミノ酸からなるタンパク質であるが、LRR superfamilyドメイン(91-495aa)を介してKu70/Ku80-DNAPKcsならびにATR-MSH2の複合体形成を阻害し、これらの活性化(機能)を低下させることがわかった。
最後に、LRRC31をつくるDNA情報(cDNA)を筆者らが開発したナノ粒子(脳腫瘍特異性を示すChlorotoxin、血液脳関門を一時的に開けるLexiscanを備えた直径約150nmの粒子)で腫瘍部へ送り、放射線治療効果を改善できるか検証を行った。移植した231BR細胞から成る腫瘍組織へのナノ粒子取り込み効率は約40%程度であるにも関わらず、放射線治療との併用により大幅な腫瘍組織の縮小と生存率の向上が認められた。

【考察・まとめ】
この論文ではBCBMsの放射線感受性を規定する重要な遺伝子LRRC31を同定し、LRRC31によるDNA修復抑制メカニズムを解明した。さらにはナノ粒子による腫瘍部位への遺伝子発現操作と放射線併用治療の有効性について実験的に示した。これらは、BCBMsの有効な治療法として応用できることが期待される。