日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

書評:放射線健康リスク科学

論文標題 -
著者 細井義夫、神田玲子
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
総頁数:282ページ (POD版4,000円+税、Kindle版 480円税込)、2020年6月発行、インプレスR&D、ISBN:978-4-8020-9877-9
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 国立大学の独立法人化後に放射線基礎医学に関係した講座数の減少が著しく、医学部の講座は近く消滅することが危惧されていた。2011年3月に発生した福島第一原子力発電所では目に見えない放射線の恐怖が社会全体を覆い、放射性物質に汚染した住民等に対する医療対応の一部に不適切な点が見られ、医療従事者の放射線に関する知識不足が指摘された。これを受けて2016年に日本学術会議が「放射線の健康リスク教育の充実」を提言し、医学教育モデル・コア・カリキュラムの改訂に放射線災害医療などの内容が盛り込まれることとなった。以上の経緯は本書の序で詳細に述べられているが、このような新しい医学教育モデル・コア・カリキュラムに対応した放射線リスク科学教育を行うことを目的として執筆された。
本書は全9章から構成され、放射線物理学、放射線生物学、放射線腫瘍学、放射線災害医療、放射線リスクコミュニケーションなど、放射線にかかわる医師や他の医療従事者に必要な情報がもれなく記載されている。第8章と9章で触れられている放射線リスクコミュニケーションでは、事故によるリスクの扱い方、被災者への接し方等が非常によくまとめられている。本書の素晴らしいところは、放射線に関する基礎的な知識から臨床応用、災害対応、リスクコミュニケーションまで、豊富な図表や写真を用いて無理なく学べるよう構成されている点である。
本書は、第一種放射線取扱主任者試験や診療放射線技師国家試験対策の導入として、また放射線を実際の業務で使用する医療スタッフにとって非常に有用な情報を提供してくれるとともに、放射線に興味と関心を持たしむる良書である。また電子書籍版が非常に安価(480円)であることもありがたい。また、プリントオンデマンド(POD)となっているために、常に最新の情報が提供される点が魅力的である。本書は随所に著者らの放射線教育に対する熱意が感じられる良書である。医学部の放射線教育に携わる者として、ぜひ本書を講義に使わせていただきたいと考えている。