日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

化学療法抵抗性の口腔扁平上皮癌に対する治療戦略としてのブルトン型チロシンキナーゼの阻害および癌幹細胞性の潜在的抑制

論文標題 Inhibition of Bruton's tyrosine kinase as a therapeutic strategy for chemoresistant oral squamous cell carcinoma and potential suppression of cancer stemness
著者 Liu CS, Wu CY, Huang MC, Hsieh SM, Huang YT, Huang SC, Hsu NT, Huang SM, Lee HW, Yeh TC, Lin SC
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Oncogenesis, 10: Article number 20, 2021
キーワード Cancer stem cells , Oral squamous cell carcinoma , Bruton's tyrosine kinase , Chemoradiotherapy

► 論文リンク

【背景・目的】
 局所進行性口腔扁平上皮癌は、手術や化学放射線療法を含む集学的治療の適応となるが、化学放射線療法耐性で再発性の癌の場合は予後不良である。口腔扁平上皮癌に対する治療において、遺伝的およびエピジェネティックな修飾、tyrosine kinaseとその阻害剤や癌幹細胞様特性は、重要な役割を果たす。上皮成長因子受容体のtyrosine kinase阻害剤であるcetuximabは、頭頚部癌の治療に使用されているが、口腔扁平上皮癌では従来の化学薬剤よりも効果が劣ることが明らかになっており、新たな治療戦略の開発が必要である。Bruton’s tyrosine kinase (BTK)は造血系の細胞で発現する非受容体型細胞質tyrosine kinaseであり、Gタンパク質共役型受容体、リンパ球表面抗原、サイトカイン受容体、toll様受容体、およびインテグリン分子のシグナル伝達を通して悪性腫瘍の形成に重要な役割を果たす。BTKの小分子阻害剤であるIbrutinibは前臨床および臨床癌研究で調査中であり、その効果の詳細はまだ明らかになっていない。そこで著者らは、BTKを介した口腔扁平上皮癌細胞の生存率減少、癌幹細胞様特性の抑制や化学放射線療法に対する感受性の増強効果を検討した。

【方法(放射線抵抗性細胞株の樹立)】
 著者らは、化学放射線療法耐性癌細胞株モデルとして、口腔扁平上皮癌細胞株であるSAS、TW2.6およびHSC-3細胞に対し、130 kV、5.0 mAで48時間毎に2 Gy X線照射を30サイクル行った(2か月で60 Gyの積算線量)。照射終了後、放射線抵抗性の確認として0.5-2 Gy照射し、コロニー形成能を測定した。

【(主な)結果】
 樹立された放射線抵抗性細胞株は元の細胞株よりも顕著にコロニー形成能および球形成能が上昇した。また元の細胞株よりもcisplatinに対し抵抗性を有することが示された。続いて著者らは、化学放射線療法耐性の口腔扁平上皮癌組織および未治療癌組織のBTK発現を免疫組織化学染色により検証した。抵抗性癌組織でBTKの発現量が高いことを示し、患者の全生存期間に影響を及ぼすことを示した。またBTKの発現が幹細胞調節遺伝子であるNanog、CD133、TIM-3およびKLF4と正の相関があることを示し、BTK発現と癌幹細胞特性の関連を示唆した。樹立された抵抗性細胞株にてshRNAによりBTK発現をノックダウンすると、前述した幹細胞調節遺伝子のタンパク質発現が減少することやコロニー形成能、球形成能も有意に減少し、悪性進行型である上皮間葉転換を抑制することが示された。さらにBTK阻害剤であるIbrutinibを抵抗性細胞株に投与すると、癌幹細胞マーカーの1つであるALDH陽性細胞割合が減少、抵抗性癌細胞株のcisplatin感受性が上昇し、化学療法に対する抵抗性を克服した。

【まとめ】
 本研究によりIbrutinibはBTKを抑制し、癌幹細胞様特性を低下させ、化学放射線療法耐性を克服し、口腔扁平上皮癌細胞に対するcisplatinの殺腫瘍効果を高めることが明らかとなった。