日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

酸化セラミダーゼは老化細胞の生存を促進する

論文標題 Acid ceramidase promotes senescent cell survival
著者 Carlos-Anerillas RM, Rossi M, Tsitsipatis D, Martindale JL, Herman AB, Yang JH, Roberts JA, Varma VA, Pandey PR, Thambisetty M, Gorospe M, Abdelmohsen K
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Aging, 13(12): 15750-15769, 2021
キーワード 酸性セラミダーゼ , スフィンゴ脂質 , 細胞老化 , 老化除去剤 , 細胞老化随伴分泌現象

► 論文リンク

【背景・目的】
テロメアの短縮や亜致死損傷ストレスは細胞老化を誘導する。老化した細胞は代謝活性を保ったまま分裂を停止し、IL6やIL8等の炎症性サイトカインを産生・分泌するSenescent-associated secretory phenotypeを示す。若年おいて、細胞老化は組織の再構成、胚発生、創傷治癒、発がん抑制などといった有益な効果を生む一方で、老化細胞の蓄積により動脈硬化、肝線維症、インスリン抵抗性、神経変性疾患などの老化関連疾患を促進する。そこで、本論文では、複製老化または放射線老化した正常線維芽細胞についてトランスクリプトームおよびプロテオーム解析を行い、老化プロセスに関わる分子を検討した。
【方法】
WI-38線維芽細胞の増殖細胞(PDL20-24)、複製老化細胞(PDL48-52)、放射線老化細胞(PDL20-24において10 Gy照射し10日間培養した細胞)を用いた。RNAシークエンス解析と質量分析を組み合わせて、複製老化と放射線誘発老化に共通して変動する遺伝子・タンパク質を解析した。また、老化関連β-galactosidase活性はSPiDER-βGalアッセイを用いた。シクロへキシミド(CHX)およびMG132処理後のASAH1タンパク質発現を解析した。加えて、ASAH1のsiRNAおよび阻害剤(ACi)、老化細胞除去剤としてダサチニブ+ケルセチン(D+Q)を用いた。
【主な結果】
1.老化WI-38線維芽細胞ではASAH1が増加した。
複製老化と放射線老化で共通して変動する遺伝子とタンパク質を解析したところ、酸性セラミド分解酵素(ASAH1)が同定された。また、老化関連マーカーであるp16、p53、SA-βGal活性の増加と共にASAH1が増加することを確認した。
2. 複製老化・放射線老化では異なったセラミド代謝を示した。
ASAH1は酸性条件下でセラミドをスフィンゴシンと脂肪酸に分解するリソソーム酵素である。増殖細胞、複製老化細胞、放射線誘発老化細胞のASAH1によるセラミドなどの関連する代謝産物を比較解析したところ、複製老化と放射線老化において共通した変化を示さなかった。この結果は、細胞老化の誘導経路によって代謝物の量的変化が生じる一方で、複製老化と放射線誘発老化において、老化経路の一部が異なる可能性を示した。
3. 老化細胞ではASAH1タンパク質の安定性が亢進した。
増殖細胞と複製老化細胞のASAH1 mRNAおよびタンパク質の安定性を検討したところ、老化細胞ではASAH1のタンパク質が安定化していた。また、ユビキチンプロテアソーム系による分解抑制がASAH1の安定化に関与することが示唆された。
4. ASAH1が老化細胞の生存と老化細胞除去剤への抵抗性を増強した。
ASAH1によるRNA干渉により複製老化細胞の老化マーカー(p16、p21、p53)が減少し、老化細胞の減少が観察された。また、ASAH1欠損細胞では、スフィンゴミエリンが著しく減少していた。ASAH1に対するRNA干渉が細胞老化およびそれに関連する代謝物を減少させたため、ASAH1の老化促進作用が示唆された。また、ASAH1阻害剤と老化除去剤の併用は老化細胞のカスパーゼ活性を増加させ、老化細胞の細胞死を誘導した。
【まとめ】
複製老化細胞と放射線誘発老化細胞において、老化関連因子としてASAH1を見出した。また、細胞老化におけるASAH1の役割と老化細胞除去剤の併用効果を検討した。本研究では、老化細胞において、ASAH1の遺伝子発現の増加だけではなく、タンパク質の安定性の向上が観察された。また、ASAH1へのRNA干渉により老化関連マーカーが減少していることから、ASAH1とその代謝産物が細胞老化を促進することが示唆された。さらに、ASAH1阻害剤により老化細胞のカスパーゼ活性が増加することから、老化細胞の維持にASAH1が関与することが明らかとなった。本研究結果から、ASAH1およびその代謝物が老化細胞の除去標的である可能性が示された。