日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

放射線により誘導されるamphiregulinは遠隔転移を促進する

論文標題 Radiation-induced amphiregulin drives tumour metastasis
著者 Piffkó A, Yang K, Panda A, Heide J, Tesak K, Wen C, Zawieracz K, Wang L, Naccasha EZ, Bugno J, Fu Y, Chen D, Donle L, Lengyel E, Tilley DG, Mack M, Rock RS, Chmura SJ, Vokes EE, He C, Pitroda SP, Liang HL, Weichselbaum RR
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Nature, 643: 810-819, 2025
キーワード stereotactic body radiotherapy , amphiregulin , epidermal growth factor receptor , mononuclear phagocytes (MNPs) , badscopal effect

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【背景・目的】
放射線治療は局所制御に加え、照射野外腫瘍の縮小(abscopal effect)が注目されている一方、転移促進など不利益な全身効果の分子機序は十分に解明されていない。本研究は、放射線が腫瘍細胞におけるEGFRリガンドAmphiregulin(AREG)を誘導し、その結果、EGFR陽性貪食細胞(MNPs)を免疫抑制表現型へ再プログラムして貪食能を低下させ、遠隔転移の増殖を促す機序を、臨床検体とマウスモデルの双方で検証したものである。

【主な結果】
1. 放射線治療はAREGを介して遠隔転移巣の腫瘍増大を促進する
多発転移に対して体幹部定位放射線治療(SBRT)を受けた進行がん患者において、治療前後の腫瘍生検ペアの遺伝子発現を解析したところ、放射線後にAREG関連経路が上昇し、遠隔転移の進行と関連した。また、AREG増加症例では予後不良を示した。
マウス・ルイス肺がん(LLC)モデルに5 Gy–20 Gyの放射線を原発巣へ照射したところ、原発巣の退縮は軽度であった。肺転移巣の個数は減少または不変であったが、転移巣の腫瘍サイズは増大した。また、照射後のLLC腫瘍ではAREG濃度が上昇した。
骨髄系細胞や血管内皮細胞におけるAreg欠損マウスにLLCを移植し、原発巣に放射線を照射しても転移巣の増大は抑制されなかったが、Aregを欠損させたLLCおよび乳がんEO771-LMBを移植した場合、この表現系は抑制された。以上より、腫瘍由来AREGが放射線後の転移巣における腫瘍細胞の増殖を促進することが示唆された。

2. 放射線により分泌されたAREGはMNPsの食作用を抑制する
AREGがEGFRに結合するとTyr992残基のリン酸化が生じる。SBRT前後に採取した患者末梢血単核球をフローサイトメトリーで解析したところ、単球および樹状細胞においてp-EGFRが増加し、その増加は予後不良と相関した。LLCモデルでも照射後に単核貪食細胞系細胞(MNPs)でEGFRの活性化が認められたが、腫瘍Areg欠損モデルでは照射に伴うMNPsでのEGFR活性化は生じなかった。
 原発巣への照射は肺への単球浸潤を増加させ、転移巣を含む肺単球の遺伝子発現は免疫抑制関連の上昇と食作用関連の低下を示した。対照的に、腫瘍側Areg欠損モデルでは活性化指向の発現プロファイルを示した。また、AREG処理はMNPsの貪食能を低下させた。加えて、放射線照射は腫瘍細胞における“Don’t eat me”シグナルであるCD47の発現を亢進し、AREG処理も同様にCD47を上昇させた。これによりCD47–SIRPα経路が賦活化し、MNPsの貪食が抑制された。

3. AREGへの介入は転移巣の腫瘍成長を抑制する
血清AREGが低い患者ではSBRTと免疫チェックポイント阻害薬の併用効果が高い傾向がみられた。マウス腫瘍モデルにおいては、抗AREG抗体やEGFR阻害剤を放射線と併用することで原発巣の退縮が増強し、転移巣の腫瘍サイズが抑制された。さらに、AREGがCD47–SIRPα経路を介して貪食を抑制することから、抗AREG抗体+抗CD47抗体の放射線併用により、原発・転移いずれに対しても抗腫瘍作用が強化された。

【まとめ】
本研究は、放射線が腫瘍由来AREGを介してEGFR陽性MNPsを免疫抑制化し、遠隔転移の増殖を促す“badscopal”な全身効果の分子基盤を提示した。臨床的には、SBRT併用療法にAREG/EGFR/CD47軸の同時遮断を組み込む戦略が、転移増悪の回避と治療効果の最大化に有望であることが示唆された。