大腸癌におけるFBL依存性酸化ストレス応答を介したPARP阻害剤との併用による低線量放射線療法の効果増強
論文標題 | Enhancing low-dose radiotherapy efficacy with PARP inhibitors via FBL-mediated oxidative stress response in colorectal cancer |
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著者 | Wen M, Qiu Y, Wang M, Tang F, Hu W, Zhu Y, Zhao W, Hu W, Chen Z, Duan Y, Geng A, Tan F, Li Y, Pei Q, Pei H, Mao Z, Wu N, Sun L, Tan R |
雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Oncogene, 44(4): 228-240, 2025 |
キーワード | 放射線抵抗性 , 酸化ストレス , 核小体タンパク質 , PARP阻害剤 |
【背景・目的】
大腸癌(CRC)は世界的に高頻度にみられる悪性腫瘍であり、進行例に対して術前化学放射線療法が広く用いられている。しかし、患者の約75〜80%は完全奏効に至らず、治療抵抗性の克服が課題である。放射線は活性酸素種の産生を介してDNA損傷を誘発するが、その修復機構や酸化ストレス応答の分子基盤は十分に解明されていない。そこで本紹介論文では、核小体タンパク質フィブリラリン(FBL)の役割に着目し、放射線抵抗性における機能を明らかにすることを目的とした。
【結果】
まず、公共データベースを用いてCRC患者検体を対象にFBLの発現を評価したところ、正常腸管上皮に比べCRC組織で有意に高発現していた。免疫染色により、FBL発現量は酸化ストレスマーカー8-hydroxy-2’-deoxyguanosineの発現量と正の相関を示し、FBLの酸化的DNA損傷との関連を示唆していた。CRC細胞株においてFBLを過剰発現させると、H2O2などの酸化ストレスに対して抵抗性を示したのに対し、FBLをノックダウンすると、酸化ストレスへの感受性は上昇した。アルカリコメットアッセイによるDNA損傷量の評価では、H2O2処理後にFBL過剰発現細胞ではDNA損傷が有意に低下し、一方でFBLノックダウン細胞では損傷量は増加した。さらに、GFP-FBLを導入したヒト骨肉腫細胞U2OS細胞を用いてマイクロレーザー照射後のFBLの動態を解析したところ、FBLがDNA損傷部位へリクルートされることが示された。このリクルートは、DNA二重鎖切断(DSB)センサーであるDNA-PKやATMに対する阻害剤の存在下では有意な変化を受けなかったが、一本鎖切断に関連するPARPに対する阻害剤であるolaparib処理やPARP1欠損細胞では有意に抑制され、FBLの集積がPARP1依存的であることが明らかとなった。共免疫沈降の結果から、FBLはPARP1のGARドメインと相互作用し、翻訳後修飾の一種であるPARylationを受けることでDNA損傷部位へ集積することが確認された。酸化損傷により誘導される塩基除去修復(BER)の効率解析では、FBLがBERの促進に関与していることが示され、具体的にはDNA ligase Ⅲのリクルートを助ける一方で、DNA複製因子であるPCNAやFEN1の解離を誘導し、特に短い塩基損傷に対するshort-patch BER経路を促進することが示された。また、過剰な酸化損傷はDSBを誘導することが知られているが、FBLを過剰発現させたヒト大腸癌細胞HCT8細胞では、H2O2処理後のγH2AX foci数および発現量は有意に抑制され、DNA損傷量も低下した。さらに、FBL過剰発現CRC細胞において酸化損傷を誘導する低線量放射線(2 Gy)とolaparibとの併用効果を検証した。その結果、コントロール細胞およびFBL過剰発現細胞のいずれにおいても、低線量放射線単独では生存率が高く維持されていたが、olaparibを併用することで顕著な細胞死が誘導され、とりわけFBL過剰発現細胞で有意に高い併用効果が認められた。さらに、マウス皮下移植腫瘍モデルでも同様の結果が得られ、コントロール腫瘍では放射線単独と比較して顕著な増殖抑制は認められなかったのに対し、FBL過剰発現腫瘍では併用療法により有意な腫瘍増殖抑制効果が観察された。免疫組織染色においても、FBL過剰発現腫瘍では、コントロールと比較して、併用療法後にγH2AX陽性細胞の有意な蓄積が認められた。
【まとめ】
本紹介論文により、FBLはCRCにおいてPARP1依存的にDNA損傷部位へリクルートされ、BERを介した酸化DNA損傷修復に関与する重要な因子であることが明らかとなった。そのため、FBL高発現腫瘍は低線量放射線などにより誘導される酸化損傷に対して抵抗性であると考えられるが、PARP阻害剤との併用療法によりその抵抗性が低減されることが示唆された。FBLはCRC治療における予後マーカーおよび治療標的となり得ることが期待される。