コヒーシンはRAD51媒介性ホモロジー探索中におけるクロマチンスキャンを制御する
| 論文標題 | Cohesin drives chromatin scanning during the RAD51-mediated homology search |
|---|---|
| 著者 | Marin-Gonzalez A, Rybczynski AT, Nilavar NM, Nguyen D, Li AG, Karwacki-Neisius V, Zou RS, Avilés-Vázquez FJ, Kanemaki MT, Scully R, Ha T |
| 雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Science, 390: eadw1928, 2025 |
| キーワード | コヒーシン , RAD51 , ループ押し出し , 相同組換え修復 , 3次元ゲノム構造 |
【背景・目的】
DNA二本鎖切断(double-strand break: DSB)はゲノム不安定性の主な原因であり、適切な修復が行われない場合、突然変異や染色体異常を引き起こす。細胞はDSBを正確に修復する経路として相同組換え修復(homologous recombination: HR)を利用する。しかし、HRの重要な過程であるRAD51フィラメントが形成された後、広大なゲノムの中から適切な相同配列を見つけ出す「ホモロジー探索」の実態は未だ十分に解明されていない。本論文では、DNAに結合して染色体ループを形成するタンパク質複合体であるコヒーシンのループ押し出し活性に着目し、DSB後に生じる局所的な3Dゲノム再編とRAD51媒介性ホモロジー探索との関連を、Hi-C、ChIP-seq、HRレポーター解析を組み合わせて明らかにした。
【主な結果】
1. DSBはコヒーシン依存的な「break-anchored chromatin loops」を誘導する
DSBが染色体の三次元構造にどのような変化を引き起こすのかを明確にするために、著者らはCRISPR-Cas9を用いて細胞内の複数箇所にDSBを誘導し、染色体立体構造を Hi-C 法により解析した。Hi-C法はゲノム上の任意の2点が空間的にどの程度近接しているかを可視化する手法である。その結果、特定のゲノム位置を固定点として、隣接領域との接触頻度が連続的に増加する「Hi-Cストライプ」が、切断点を起点として一方向に伸びる形で検出された。このことは、切断点が固定点(anchor)として機能し、そこから染色体がループとして押し出されていることを示唆しており、著者らはこのDSBに特異的に形成されるループ構造を「break-anchored chromatin loops」と定義した。次に、break-anchored chromatin loopsの形成にコヒーシンが関与しているかを検証するため、コヒーシンの主要構成因子であるRAD21をオーキシン誘導性分解システムにより急性分解すると、Hi-Cストライプが消失した。このことは、観察されたストライプ構造がDNA切断そのものではなく、コヒーシンの活性によって形成されていることを示している。一方で、コヒーシンを染色体へロードする因子NIPBLが切断点に集積することが確認され、DSB応答として新たにコヒーシン依存的ループ形成が誘導されることが示された。
2. break-anchored loopsは損傷直後ではなく、HRの進行段階で特異的に形成される
Break-anchored loopsがDSB応答のどの段階で形成されるのかを明らかにするために、DSB誘導後の時間経過に沿ってHi-C解析を行った。その結果、break-anchored loopsは切断直後には検出されず、切断後約1–3時間で出現することが示された。この時間は、MRE11やCtIPによるDNA末端リセクションが進行し、RPAが一本鎖DNA(single-stranded DNA: ssDNA)と結合した後、BRCA2依存的にRAD51がロードされる段階と一致していた。また、細胞周期を同期させた実験では、HRが利用可能なS/G2期の細胞でのみループ構造が観察され、G1期では検出されなかった。これらの結果から、break-anchored loopsは単なる初期損傷応答ではなく、HRに特異的な「ホモロジー探索フェーズ」と連動して形成される構造であることが示された。
3. RAD51は切断部位近傍のssDNAに加え、広範囲の二本鎖DNAにも結合する
次に、ホモロジー探索を担うRAD51がゲノム上でどのように結合しているのかを解明するために、RAD51のChIP-seq解析が行われた。その結果、切断点近傍では従来知られているようにssDNA上に鋭いピークが形成された。一方で、切断点から数百kb〜最大約 1 Mbに及ぶ広い領域において、弱いが有意なRAD51結合シグナルの拡大が検出された。strand-specific ChIP-seqを用いたより詳細な解析では、切断近傍のRAD51シグナルはssDNAに偏っており、ssDNAへの結合を反映したのに対し、遠位の広域シグナルではこの結合の偏りが消失し、RAD51が二本鎖DNAの双方の鎖に結合を示した。この結果は、切断近傍のRAD51はssDNAフィラメントとして機能する一方で、遠位に検出されるRAD51は、二本鎖DNA(double-strand DNA: dsDNA)を含むクロマチン上に結合し、ホモロジー探索に関連している可能性を示唆された。
4. RAD51のホモロジー探索は遠距離の相同配列近傍まで到達する
著者らは、RAD51の広域な結合とホモロジー探索の機能的な関連を検証するために、相同配列ドナーを切断点から異なる距離(+3 kb、+441 kb、+563 kb)に配置したHRレポーター細胞を用いて、RAD51の挙動を検証した。その結果、+441 kb や +563 kb といった数百kb 離れたドナー配列上にもRAD51の局所的な集積が検出された。この結果は、RAD51 がホモロジーを探索する過程でRAD51の広域なdsDNAへの結合が生じていることを支持する。
5. コヒーシンのループ押し出しはRAD51の探索範囲とHR効率を制限する因子である
これまでの解析により、DSB 誘導後に生じるコヒーシン依存的なループ押し出しと、RAD51による広範囲のホモロジー探索が空間的・時間的に相関していることが示された。その上でこの相関関係が実際のHR効率にどのような影響を与えるのかを検証するために、著者らはコヒーシンの機能関連因子を除去することでコヒーシンの活性を制御し、コヒーシン活性の強弱がホモロジー探索に与える影響を調べた。コヒーシンを染色体から除去する因子WAPLを除去すると、コヒーシンの染色体上での滞在時間が延長され、ループ構造はより遠方まで拡張し、それに伴ってRAD51の広域結合ドメインが拡大し、遠距離の相同配列を利用するHRの効率が向上した。一方で、コヒーシンを染色体へロードする因子のNIPBLをノックダウンすると、ループ構造ができにくくなり、RAD51の広域結合ドメインも縮小し、遠距離ドナーを利用するHRの効率が著しく低下した。この結果は、コヒーシン依存的なループ押し出しが遠距離ホモロジー探索に不可欠であり、ループ押し出しと RAD51 探索との相関は、HR の成功を左右する機能的に重要な関係であることが示された。
【考察・まとめ】
本論文は、DNA損傷修復におけるホモロジー探索過程をRAD51分子の配列認識能のみに帰するのではなく、DSBによって誘導されるコヒーシン依存的な3Dクロマチン再編とRAD51の動態が協調する過程として捉える新たな視点をもたらした。DSBによって誘導されるコヒーシン依存的なループ押し出しは、広範囲のゲノム領域を切断点近傍へ物理的に集約し、その環境下でRAD51がdsDNAを大規模に探索することで、効率的なホモロジー探索が可能になると考えられる。
放射線は細胞内に多数のDSBを誘発し、HRを含むDNA修復プロセスの効率は線量や細胞状態に依存して変化する。本研究で示された3Dゲノム再編と修復分子の協調モデルは、放射線損傷後の修復挙動の理解や、修復能の個人差および修復阻害薬の効果評価に応用可能であると期待される。