相同組換え修復阻害剤を用いた肝癌に対するホウ素中性子捕捉療法の感受性の向上
| 論文標題 | Enhancing radiosensitivity of boron neutron capture therapy for liver cancer with homologous recombination repair inhibitor |
|---|---|
| 著者 | Lai ZY, Huang YH, Zhou TY, Lee CY, Shiao YM, Chen YW, Chou FI, Chen JK, Chuang YJ |
| 雑誌名・巻・ ページ・発行年 |
Jpn J Radiol, 44(1): 196-208, 2026 |
| キーワード | 肝細胞癌 , BNCT , RAD51 , オートファジー , DNA修復 |
【背景】
ホウ素中性子捕捉療法 (BNCT) は、10B含有薬剤を腫瘍細胞に集積させた後に中性子を照射し、10B(n,α)7Li反応によって生成される高LETのα粒子および7Li原子核により腫瘍細胞を選択的に破壊する治療法である。これらの粒子は飛程が極めて短いため、周囲の正常組織への影響を最小限に抑えられる。中でもホウ酸 (Boric acid : BA) をホウ素供与体とするBA-BNCTは肝癌に対する有望な治療戦略として注目されている。BNCTはDNA二本鎖切断など広範なDNA損傷を誘導するが、修復能力が上回る場合にはがん細胞は効率的に修復されるため細胞死が生じにくい。さらにDNA損傷はオートファジーを活性化し、損傷成分の除去を通じて細胞恒常性の維持に関与する。特に、肝細胞癌 (HCC) では再発例や治療抵抗性を示す症例が多く、放射線抵抗性や放射線誘発性肝疾患のリスクが課題である。そこで本研究では、放射線増感剤であるB02を併用することで治療効果を高めつつ放射線量と副作用を抑え、放射線抵抗性HCCに対するBA-BNCTの有効性向上を目的とした。
【結果】
※1~5の結果はすべて、B02 10μM (照射24時間前に処理) 、BA-BNCT 1 Gy照射 (BAは照射30分前に25μg 10B/mLで添加) の条件で実験を行なっている。
1. RAD51阻害剤 (B02) は、BA-BNCTにおいて放射線増感作用を示す。
RAD51阻害剤B02は、RAD51と損傷DNAとの相互作用を阻害し、RAD51フォーカス形成を抑制することで相同組換え修復 (Homologous Recombination Repair : HRR) を低下させることが報告されている。コロニー形成アッセイを行なった結果、ヒト肝細胞癌HepG2細胞における生存率 (surviving fraction : SF) は、BA-BNCT単独群で0.14、B02単独群で0.57、BA-BNCTとB02の併用群で0.03であった (SF=1は生存率100%を表す)。一方、HepG2細胞の派生株である放射線耐性HepG2R細胞では、それぞれ0.17、0.48、0.05であった。すなわち、両細胞株においてBA-BNCTと B02の併用群では、BA-BNCT単独群よりも有意な生存率低下が認められた。さらに、BA-BNCTにおけるB02の放射線増感効果を評価するためSER (Sensitizer Enhancement Ratio : 増感増強比) およびRER (Relative Effect Ratio : 相対効果比) を算出した。SERは、B02を処理した場合におけるD10値 (=10%生存率に相当する線量) を基準に算出した。RERは、BA-BNCT単独群に対する細胞生存率と、BA-BNCTとB02の併用群における生存率を比較することで算出した。その結果、SERはHepG2細胞で1.30、HepG2R細胞で1.25であり、RERはそれぞれ5.53および3.81といずれも1を上回ったことから、B02はHRR抑制を介してBA-BNCTの放射線増感剤として機能することが示された。
2. B02は、BA-BNCT後のDNA損傷応答を阻害する。
HRR経路は、DNA損傷修復において極めて重要であることから、ウェスタンブロッティング法を用いて、放射線照射後のHepG2細胞におけるRAD51発現レベルを解析した。その結果、BA-BNCT 照射後10時間および24時間において、RAD51発現は非照射細胞と比較して有意に上昇した。一方、HepG2R細胞では、照射後早期からRAD51発現が増加し、非照射細胞と比較して、照射後4時間、10時間、24時間と時間依存的に有意な上昇が確認された。このことは、HepG2R細胞が高いHR修復能を有する、すなわち潜在的な放射線抵抗性が示唆された。さらに、BA-BNCTとB02の併用群では、両細胞株で照射後4時間、10時間、24時間にRAD51発現がBA-BNCT単独群より有意に低下し、耐性株でより顕著であった。次に、DNA二本鎖切断マーカーとして用いられるγH2AXを解析した場合でも、BA-BNCTとB02の併用群では両細胞株ともに、照射後10時間および24時間でBA-BNCT単独群よりもγH2AX発現が増加し、特に10時間で顕著であった。これらの結果から、B02はHRRを阻害してBA-BNCTによるDNA損傷を増強し、治療効果を高める可能性が示唆された。
3. BA-BNCTとB02の併用療法は、肝癌細胞においてG0/G1期停止を誘導する。
BA-BNCTとB02の併用後における細胞応答を評価するため、細胞周期分布の変化を解析した。その結果、BA-BNCT照射後4時間および10時間にHepG2細胞とHepG2R細胞でG2/M期細胞の増加が認められ、DNA修復応答が示唆された。一方、B02添加によりBA-BNCT誘発G2/M期停止は減少し、特に照射後10時間でG0/G1期細胞の有意な集積が認められた。HepG2細胞ではG2/M期細胞が13.79%減少し、G0/G1期細胞は13.05%増加、HepG2R細胞においてもG2/M期細胞は18.26%減少し、G0/G1期細胞は14.79%増加した。
以上より、B02によるRAD51阻害は、BA-BNCT後にHRRを直接抑制することでDNA修復応答を変化させ、細胞周期制御に影響を及ぼすことが示唆された。
4. B02はBA-BNCTによって誘導されるオートファジーを阻害する。
オートファジーは損傷DNAの分解を介して細胞の恒常性を維持することから、BA-BNCTによるオートファジー誘導を観察した。オートファジー関連マーカーであるLC3Bおよびp62をウェスタンブロットで解析した結果、BA-BNCT後のHepG2細胞およびHepG2R細胞では、LC3BII/LC3BI比 (LC3Bの脂質化を反映するオートファゴソーム形成の指標) の上昇およびp62の減少が認められ、オートファジー誘導が示唆された。
次に、BA-BNCT誘導オートファジーに対するB02添加の影響を検討した。照射後4時間、10時間、24時間において、BA-BNCTとB02の併用群ではBA-BNCT単独群と比較してLC3BII/LC3BI比のさらなる上昇が認められた。一方で、p62はB02添加後に累積的な増加を示した。これらの結果は、B02がオートファゴソーム形成を促進する一方で、リソソームとの融合過程が十分に進行していない可能性、すなわちオートファジーフラックスの阻害を示唆している。
5. アポトーシス経路はB02添加によって亢進する。
オートファジーフラックスの阻害は、オートファゴソームの分解抑制を通じて、細胞ストレスを増大させることが知られている。BA-BNCTとB02の併用処理はオートファゴソームの蓄積によりストレスを増強し、アポトーシスを誘導する可能性がある。そこで、各処理24時間後にカスパーゼ3の発現を解析したところ、B02単独群では軽度の上昇が、BA-BNCT単独群ではより顕著な上昇が観察された。さらに、BA-BNCTとB02の併用群ではB02単独群よりも顕著な上昇が確認され、未処理群と比較してHepG2細胞で3.8倍、HepG2R細胞で1.7倍に上昇した。以上より、B02はBA-BNCTによるアポトーシスを増強し、放射線抵抗性HepG2R細胞においてもその効果を高めることが示唆された。
【まとめ】
本研究では、肝癌に対するBNCTとRAD51阻害剤B02の併用について検討し、BA-BNCTとの併用による増感効果に注目した。その結果、この治療薬はBA-BNCTの抗腫瘍効果を増強し、既存の治療効果を大幅に高める可能性があることが示唆された。重要な知見として、B02はDNA損傷応答経路に影響を及ぼし、細胞周期の変化、オートファジー阻害、アポトーシス経路の活性化につながることが明らかになった。
さらに、B02はBA-BNCTによって誘導されるオートファジーフラックスを阻害し、損傷成分の分解を抑制した。その結果、修復不全などによるストレスの蓄積は、アポトーシス経路の活性化につながり、細胞死がより強く誘導されることが示唆された。特に、これらの作用は放射線抵抗性HepG2R細胞においても確認され、B02の併用が治療抵抗性克服の戦略となり得る可能性が示唆された。
以上のことから、B02はDNA修復の阻害、細胞周期制御の破綻、オートファジー抑制、アポトーシス誘導といった複数の作用を介して、BA-BNCTの治療効果を増強することが示された。本研究は、放射線抵抗性肝癌に対するBNCTの治療効果向上に向けた新たな可能性を示すものであり、今後の臨床応用を検討するうえで有用な知見となることが考えられる。