日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

モノユビキチン化FANCD2によりリクルートされるヌクレアーゼFAN-1の発見

論文標題 Deficiency of FANCD2-associated nuclease KIAA1018/FAN1 sensitizes cells to interstrand crosslinking agents.
著者 Kratz K, Schopf B, Kaden S, Sendoel A, Eberhard R, Lademann C, Cannavo E, Sartori AA, Hengartner MO, Jiricny J.
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Cell, 142, 77-88, 2010.
キーワード ファンコニ貧血 , FANCD2 , FAN-1 , FAN-1 , FA経路

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 ファンコニ貧血(FA)は、骨髄不全、白血病などの高発がん性、染色体不安定性、クロスリンク剤への高感受性などを特徴とする小児の遺伝性疾患である。今年5月に報告されたRad51C(=FANCO)が最も新規のFA遺伝子であることを認めるとすると、現在その原因遺伝子は合計14にもおよび、これらの遺伝子産物が協調してDNAクロスリンク修復において機能するものと考えられている。FA蛋白質のうち8つはFAコア複合体を形成し、DNA損傷後、FANCD2・FANCIの二つのFA蛋白質(ID複合体)をモノユビキチン化する。このモノユビキチン化がID複合体のフォーカス形成とクロマチン結合、さらにFA経路のDNA修復機能発現に必須である。最近FANCD2 は、DNAクロスリンク部位でのDNA切断と、その後の損傷乗り越え複製に重要であることがカエル卵抽出液を用いた実験で示された。しかし、ID複合体がどのような分子機構でその機能を発揮するのか、不明のままであった。

 今回CellとMol Cell誌に発表された3報の論文は、モノユビキチン化FANCD2に依存的に損傷局所に集積するヌクレアーゼFAN-1(Fanconi-associated nuclease 1)を同定し、そのエクソヌクレアーゼ、エンドヌクレアーゼ機能がFA経路の機能に重要であることを強く示唆している。
 Rouseらはヌクレアーゼに興味をもっておりその研究の流れから、Jiricnyらはミスマッチ修復蛋白質MLH1のinteractorome解析から、Elledge/Smogorzewskaらは得意の全ゲノムshRNAスクリーニングによるマイトマイシンC感受性遺伝子の探索からFAN-1に行き着いたと思われる。
 FAN-1はC末にヌクレアーゼドメイン、N末にユビキチンを結合可能なUBZドメインを持つ。各論文とも、FAN-1がFANCD2と共局在するフォーカスを形成すること、それがFANCD2とそのモノユビキチン化に依存すること、さらにFAN-1のUBZドメインがフォーカス形成に必要であることを示している。FAN-1をノックダウンするとシスプラチンやマイトマイシンCに特異的に感受性となり、染色体断裂も高頻度で認められる。一方、FAN-1はFANCD2のモノユビキチン化には必須ではなく、したがってFANCD2の下流で働く分子であることがわかる。siRNAによる同時ノックダウンでFANCD2とFAN-1のMMC感受性がエピスタシスであることも示唆された。ただし、FAN-1を免疫沈降するとモノユビキチン化されたものとされないFANCD2の両者の会合が検出されており、FAN-1の機能はFANCD2ユビキチン化に完全には依存しないのではないかという疑念も残る。
 いずれにしても、年余にわたってこの分野の大きな疑問であったFANCD2のクロスリンク修復における分子機能に一定の回答を与えたという点で、FAN-1の発見は高いインパクトを持っている。3つの論文とも、FAN-1の酵素活性を生化学的に解析し、FLAP構造や分岐型のDNA構造に対してエンド・エクソの両ヌクレアーゼ活性が認められている。これらの活性が実際にクロスリンク修復におけるどの段階の中間産物にどのように作用するのかについては、これらの論文にもはっきりした回答はなく、今後の検討に待たねばならない。
 最後に、FAN-1がFAの15番目の遺伝子である可能性はまだ否定されておらず、まだ検討中と記載されている。ちなみに欧米の患者レポジトリには数十例の未知のFA遺伝子欠損症例が収集されているという(私信)。

追記:先日、ケンブリッジ大のKJ Patelらは、精製したFANCD2蛋白質がエクソヌクレアーゼ活性を持つことを報告した(Science. 2010 Jul 9;329(5988):219-23. Epub 2010 Jun 10.)。この活性が真性のものであれば、FAN-1の活性と考え合わせて、FA経路の機能解明に大きな意義を持つ報告である。しかしこの報告にはヌクレアーゼ活性を失った変異型FANCD2のデータがなく、ここで観察されている活性が本当にFANCD2そのものの活性をみているのかどうか(コンタミしたものではないのか)の不安も少し残る。

追追記:さらにFAN-1を報告する第4の論文がサイエンス誌ウェブサイトに掲載された(Sciencexpress欄)。内容は同一といって良いものである。

参考文献
1. Deficiency of FANCD2-associated nuclease KIAA1018/FAN1 sensitizes cells to interstrand crosslinking agents. Kratz K, Schopf B, Kaden S, Sendoel A, Eberhard R, Lademann C, Cannavo E, Sartori AA, Hengartner MO, Jiricny J. Cell. 2010 Jul 9;142(1):77-88.
2. Identification of KIAA1018/FAN1, a DNA repair nuclease recruited to DNA damage by monoubiquitinated FANCD2. MacKay C, Declais AC, Lundin C, Agostinho A, Deans AJ, MacArtney TJ, Hofmann K, Gartner A, West SC, Helleday T, Lilley DM, Rouse J. Cell. 2010 Jul 9;142(1):65-76.
3. A genetic screen identifies FAN1, a Fanconi anemia-associated nuclease necessary for DNA interstrand crosslink repair. Smogorzewska A, Desetty R, Saito TT, Schlabach M, Lach FP, Sowa ME, Clark AB, Kunkel TA, Harper JW, Colaiacovo MP, Elledge SJ. Mol Cell. 2010 Jul 9;39(1):36-47.