日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

ATRによるMLLのリン酸化は、哺乳類におけるS期チェックポイントに重要である

論文標題 Phosphorylation of MLL by ATR is required for execution of mammalian S-phase checkpoint.
著者 Liu H, Takeda S, Kumar R, Westergard TD, Brown EJ, Pandota TK, Cheng EHY, Hsieh JJ
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Nature 467,343-436, 2010.
キーワード 白血病 , MLL , ATR , チェックポイント , S期

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予後不良な白血病の原因の一つとして、ヒト染色体11q23上に位置するMLL (mixed lineage leukemia)遺伝子の転座が知られ、小児の急性白血病の8割で認められるという。この転座によって、MLLのN端側と他の染色体由来のタンパクが融合した異常な融合タンパクが産生され、これまでに60種類以上ものMLL融合パートナータンパク質が同定されている。MLL遺伝子がコードしているのは、約500kDaにも及ぶ巨大なタンパクのprecursor MLL500である。MLLは、Drosophia trithorax (trx) のヒトのオーソログで、幾つものよくconserveされた機能ドメインで構成されている。その中でも、メチルトランスフェラーゼ活性に関連したSETドメインをC端側に有するのが特徴である。MLLが、メチルトランスフェラーゼ活性を介してヒストンをメチル化し、胚発生などを調整するHox遺伝子の転写を活性化することが分かっているが、その他にも細胞周期、細胞死、幹細胞の機能などにも関与すると考えられている。

 今回紹介する論文の筆者らは、以前よりMLLに注目して研究を続け、precursor MLL500がプロセッシングされてN末の部分(MLLN320)とC末の部分に(MLLC180)に分かれ、これらがヘテロダイマーを形成してmature MLL (MLLN320/C180)となる過程で必要なプロテアーゼを同定し、Taspase1 (threonine aspartase 1)と名付けた。さらに彼らは、MLLと細胞周期の関連に着目し、MLLの発現のピークがG1/期SとG2/M期に二相性に認められ、MLLがそれぞれのphaseに関わるE3ライゲース( S期:Skp2、M期:Cdc20) によって分解されることを発見した。なぜMLL発現がS期及びM期への移行に伴って低下する必要があるのかという疑問に対する答えを模索する中で、ついに彼らは、MLLタンパク質がDNA損傷に応答してS期に蓄積し、ATRの下流でチェックポイントに関与する機能を持つことを見出し、今回紹介する論文に至った。
 まず筆者らは、正常な細胞では、MLLがS期で増大することを確認した。また、MMC処理後のMLL-/- マウスの胎児線維芽細胞(MEF)が、染色体異常とRDS (radioresistant DNA synthesis) を呈したことから、MLLがS期チェックポイントにおいて重要な役割を果たすのではないかと考えた。そこで彼らは、白血病で認められるMLL融合タンパクがS期チェックポイントに与える影響を調べた。治療関連性白血病として知られるt(11; 16)白血病では、MLL-CBPという融合タンパクが原因とされている。彼らは、それをmimicして、一方のアレルは正常にMLLを発現し、もう一方のアレルでは、CreリコンビナーゼによってMLL-CBPが誘導されるとういうマウスからMPC (Myeloid Precursor Cells) を分離した。この細胞は、Cre誘導前ではWTと比較して約半分のMLLしか発現できないと考えられ、RDSも示したが、Creを誘導後にMLL-CBPが発現されると、RDSの傾向が強くなった。このことから、MLL-CBPがdominant negativeとして働き、S期チェックポイントの異常を引き起こすことが示唆された。
 では、DNA損傷後、S期にMLLタンパク質が蓄積してチェックポイントに働きかける経路はどのようになっているのだろうか?正常な細胞周期がS期に移行すると、Skp2がMLLのN端側に直接結合してMLLを分解する。そこで彼らは、MLLN320を過剰発現させた293T細胞をヒドロキシウレア(HU)で処理して、MLLとSkp2の結合を調べた。正常な細胞周期ではMLLに結合してMLLを分解するはずのSkp2がMLLから乖離し、それに伴ってMLLの発現が増加した。この現象が、S期チェックポイントの主要なキナーゼのシグナルによって起きている可能性を考え、PI3阻害剤投与下で同様の実験をしたところ、MLLの発現は増加しなかった。さらに、ATM、ATR、DNA-PKsのそれぞれのキナーゼをノックアウトしたMEFを用いた実験により、ATRがMLLタンパク質を蓄積させる責任キナーゼであることが分かった。そこで、Bioimformatic analysisを行ったところ、MLLの516番目のセリンがATRによるリン酸化部位として同定された。その部位の変異体MLL(S516A)を過剰発現させた細胞では、HU処理後もSkp2がMLLから乖離せず、MLLの発現の増加も認めなかった。また、in vitro kinase assayにより、ATRによってMLLの516番目のセリンがリン酸化されることも示した。これらの結果から、HUによるDNA損傷に応答して、S期にATRがMLLの516番目のセリンをリン酸化することで、Skp2がMLLより乖離され、MLL分解が低下して集積し、チェックポイントを働かせる可能性が示唆された。しかし、彼らの解析はここに留まらず、MLLのS期チェックポイント活性とメチルトランスフェラーゼ活性との関連を追跡することで、更なるメカニズム解明に迫った。
 DNA複製の開始には、CDC45が前複製複合体(Pre-RC)に加わることで、複製開始領域の二本鎖DNAが開裂して一本鎖になることが必要であると考えられている。彼らは、代表的な後期複製開始点であるβ-グロブリン遺伝子開始点でChIP (Chromatin immunoprecipitation)解析を行ったところ、etoposide処理後、正常な細胞ではMLLとメチル化H3K4シグナルの増大とCDC45シグナルの減少を認めたのに対して、MLLノックダウン細胞では、MLLとメチル化H3K4は増加しないが、CDC45が強く蓄積するという結果を得た。また、トリメチル化されたH3K4はCDC45とほとんど共免疫沈降できないことも確認された。これらのことから、S期においては、DNA損傷に応答したATRによって516番目のセリンがリン酸化されたMLLが、Skp2から乖離して蓄積し、H3K4をメチル化することで後期複製開始点におけるCDC45のクロマチンへのloadingを妨げ、その結果、DNA複製を遅滞させることでS期チェックポイントを働かせる、というモデルを彼らは提唱した。

最後に筆者らは、これまでの結果が、実際のMLL白血病の病態にも当てはまるのかを検証する実験を行った。前述したように、MLL融合パートナータンパク質はMLLのN端側と融合するので、メチルトランスフェラーゼ活性を有しない。彼らは、MLL融合タンパク質がS期チェックポイントにおいてどのようにdominant negative として働くかを調べるために、MLL融合タンパク質の中でも多くを占める、MLL-AF4とMLL-AF9を発現させた細胞を用いた。これらの細胞では、DNA損傷後も、後期複製開始点においてH3K4をメチル化できず、それゆえCDC45の蓄積を認め、正常なMLLがSkp2と会合したままで、従って、正常なMLLが蓄積できなかった。すなわち、MLL融合タンパク質は、正常なMLLの活性化・安定化を妨げ、自身もトランスフェラーゼ活性をもたないためにH3K4はメチル化されず、CDC45がクロマチンに結合し、S期チェックポイントが正常に働かないままDNAの複製を開始させてしまうことが示唆された。
 以上、筆者らは、MLLがDNA損傷応答において、ATRの下流でS期チェックポイントによる複製制御に重要な働きをすることを明らかにした。さらに、MLL遺伝子の転座によるMLL融合タンパクの産生によって、S期チェックポイントが正常に機能しなくなることが、MLL関連白血病発症のメカニズムである可能性を示した。MLL関連白血病の病態解明の手掛かりとして非常に意義深い発見である。また、今回の論文により、S期チェックポイントの舞台の役者として、MLLが新たに加わることになったと言える。MLLが、数多くの他の役者達とどのように絡み、どのようにS期チェックポイントのシナリオに影響を与えるのか、今後の展開に期待したい。

<参考文献>
1 A.V. Krivtsov and S. A. Armstrong; MLL translocations, histone modifications and leukaemia stem-cell development, Nature Rev. Cancer 7, 823-833 (2007)
2 H. Liu, S. Takeda, E.H.Y. Cheng and J.J.D. Hsieh; Biphasic MLL takes helm at cell cycle control, Cell Cycle 7;4, 428-435 (2008)