日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

複製ストレス下の染色体複製未完了領域はM期を越えて次のG1期で53BP1が集積し保護される

論文標題 53BP1 nuclear bodies form around DNA lesions generated by mitotic transmission of chromosomes under replication stress.
著者 Lukas C, Savic V, Bekker-Jensen S, Doi Cl, Neumann B, Pedersen RS, Grofte M, Chan KL, Hickson ID, Bartek J, Lukas J.
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Nat Cell Biol. 13, 243-253, 2011.
キーワード 複製ストレス , 53BP1 , USB , BLM , Fragile site

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 数年まえHicksonら[1]、Rosselliら[2]は、低容量アフィディコリン(複製阻害剤)による軽度の複製ストレス後のM期anaphaseにおいて、解離しつつある姉妹染色分体のあいだをultrafine bridge(UFB)と呼ばれるDNAを含んだ構造体が、まるで糸をはったように結んでいることを見出した。
 UFBは以下のような特徴をもっていた。1.非常に細いDNAであって、DAPI染色等では検出不可能、2.ブルーム症候群原因遺伝子産物であるBLMヘリカーゼとM期関連のヘリカーゼPICHの免疫染色によって検出できる、3.UFBのねもと、染色体とつながるあたりにファンコニ貧血蛋白質であるFANCD2がフォーカスを形成している(sister focus)、4.アフィディコリン処理後断裂を呈するcommon fragile site(CFS、FRA16D等)にこのフォーカスが高頻度に局在している、5.BLM欠損細胞でUFBの頻度が上がるので、BLMはUFBの解除に機能すると思われる。これらの性質から、UFBは、複製がきちんと終了しない状況下でからまったDNAが、anaphaseにおいて姉妹染色体の間に観察されるものと考えられた。CFSはがんにおいて高頻度に欠失し、がん抑制遺伝子の近傍にあることが多い。常識的には、チェックポイントが働き、複製が終了するまで細胞がM期に突入するのはありえないはずで、この発見はかなりの驚きをもって迎えられた。
 では、UFBはBLMにより無事解除されて、次の細胞周期では染色体に何の問題もないのだろうか。Jiri Lukasらは、通常の細胞培養条件で、DNA損傷応答蛋白質53BP1が高頻度に核内でフォーカス(この論文ではnuclear body(NB)と呼ばれている)を形成することに気づき、詳細に検討した[3]。NBは様々な細胞で観察され、その存在はG1期に限られており、多くの二重鎖切断修復蛋白質と共局在していた。NBはアフィディコリン処理で増加するなど、複製ストレスやCFSとの関連などが示唆された。さらに生細胞イメージングによって追跡すると、NBは細胞がG1期に入るとすぐ出現し、S期へ進行すると消失する。
 彼らは、NBが対称的に分布するなど、さまざまな所見を得て、複製ストレスによって複製未完了部位がM期を越えて次のG1期でなんらかのDNA損傷として認識され、53BP1のNBが発生すると結論していた。実際、BLMをノックダウンすると53BP1のNBは増加した。また、染色体凝縮に関わるコンデンシンSMC2をノックダウンするとNBが減少するため、染色体凝縮そのものが複製未完了領域をDNA損傷に転換するらしい。53BP1をノックダウンすると、Tunnel assayで検出される二重鎖切断が増加したので、53BP1は複製ストレスをうけた染色体をシールドしていると思われた。
 以上、Hicksonらによって発見されたUFBによって示された複製未完了領域の修復は、意外にも次のG1期に持ち越されていたわけである。といっても、その持ち越されたDNA損傷がどのように修復されるのか、この論文ではまだ明確に示されたとは言えないであろう。しかし、今回の発見が、発癌における複製ストレス、CFSの不安定性等を考える上で重要な意味を持っていることは間違いない。

<参考論文>
1. Chan KL, Palmai-Pallag T, Ying S, Hickson ID. Replication stress induces sister-chromatid bridging at fragile site loci in mitosis. Nat Cell Biol. 2009;11:753-60.
2. Naim V, Rosselli F. The FANC pathway and BLM collaborate during mitosis to prevent micro-nucleation and chromosome abnormalities. Nat Cell Biol. 2009;11:761-8.
3. Lukas C, Savic V, Bekker-Jensen S, et al. 53BP1 nuclear bodies form around DNA lesions generated by mitotic transmission of chromosomes under replication stress. Nat Cell Biol. 2011;13:243-53.