日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

酸化ストレスはミトコンドリアDNAの分解を引き起こす: 酸化ストレスのみではミトコンドリアDNAの突然変異は生じない

論文標題 Oxidative stress induces degradation of mitochondrial DNA
著者 Shokolenko I, Venediktova N, Bochkareva A, Wilson GL, Alexeyev MF
雑誌名・巻・
 ページ・発行年
Nucleic Acids Res. 37, 2539-2548, 2009
キーワード ミトコンドリア , mtDNA , 酸化ストレス

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 ミトコンドリアDNA(mtDNA)の突然変異はミトコンドリア病疾患の原因としてや、発がん、神経変性障害、糖尿病、老化などと関連していることが考えられている。ミトコンドリアは活性酸素種を産生することから、これらの酸化ストレスがmtDNAを攻撃することにより、突然変異が生じると思われてきた。しかしながら、本論文では酸化ストレスへの暴露のみではmtDNAの突然変異は生じないことを示した。興味深いことに、核のDNAとは異なり、酸化的ストレスを受けたmtDNAは修復されなかった場合、分解されることがわかった。
 まず筆者らはHCT116細胞とMEF細胞を用い、酸化ストレスに暴露させた直後と暴露後mtDNAが修復された時間における、mtDNAの突然変異の頻度について調べた。その結果、酸化ストレスに暴露させた直後にはmtDNAに脱塩基、DNA一本鎖切断、DNA二重鎖切断などの損傷が生じているにも関わらず、それらが修復された後に突然変異が生じていないことが示された。面白いことに、mtDNAのサザンブロッティングの結果、酸化ストレスに暴露後、mtDNA量が減少していることがわかった。このことは酸化的損傷を生じた一部のmtDNAが分解されていることを示す。調べた結果、脱塩基や一本鎖切断は修復されること、ミトコンドリアにおいて修復機構が無いとされる二重鎖切断が生じたmtDNAは分解されることがわかった。さらに、筆者らは酸化ストレスにおいてもアルキル化損傷においても、塩基除去修復を阻害することによりmtDNAの分解が促進されることを発見した。筆者らは、脱塩基においても一本鎖切断においても修復されなかった場合、そこを起点とし二重鎖切断が生じ、結果として直鎖状のmtDNAが分解されるのではないかと考察している。
 これらの酸化ストレスにさらされたmtDNAが分解されるという発見は、新しいmtDNAの防護機構を示しており、mtDNAが酸化ストレスに暴露されながらもどのようにしてその遺伝情報の正確性を保っていられるのか、という疑問への解決の糸口になるのではないかと思われる。今後mtDNA分解の詳しい分子機構の解明が期待される。