日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

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原乳から基準を数倍上回る放射能が検出されたようですが飲んでも大丈夫ですか?

原乳からは牛乳や乳製品が作られますが、市場に流通している牛乳や乳製品は放射能の濃度が基準を上回らないように管理されていますので市場に出回ることはほとんどありません。首相官邸災害対策ページ(http://www.kantei.go.jp/saigai/alert.html)に農作物の放射性物質汚染量測定結果と、それに基づいた規制についての情報が公表されていますので見てみてください。それでも、汚染した牛乳が市場に出回ってしまって、仮に放射性物質の濃度がいま報告されている基準を数倍上回る牛乳を1年間飲み続けたとしても、受ける放射線量は、私たちが1年間に自然から受ける放射線の数倍程度の量です。現在のところ牛乳を飲むことによる健康への影響を心配する必要はありません。農林水産省が発表している野菜および乳製品に関するQ&Aがhttp://www.maff.gojp/j/kanbo/joho/saigai/seisan_situmon.html# gyunyu3に掲載されています。参考にしてください。

[掲載日] 2011-03-20

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洗濯物を外に干していいですか?

計画的避難区域では、洗濯物を外に干さないでください。
緊急時避難準備区域は、通常の生活が可能な状況では、外へ干して大丈夫ですが、事故現場で緊急的な事態悪化があると放射性物質が短時間で飛来する可能性がありますので、できるだけ外に干すのを控える方が良いでしょう。
計画的避難区域や緊急時避難準備区域以外で、放射線量が通常レベルよりも高くなっていて、放射性物質が土壌などから検出されている地域では、以下に挙げるような理由で洗濯物を外に干しても大きな問題はないと思われます。まず、公表されている空中における放射性物質量(ダストサンプラーでの測定)の観測値によると、現在は、福島原発から大気中への新たな放射性物質の大量放出は起きておらず降下する放射性物質は減りつつあります。その一方で、土壌の表層には、平成23年3月中旬の水素爆発で飛散した放射性物質が降下し留まっています。このうち、半減期が8日と短いヨウ素131は急速に減少していますが、半減期が30年と長い放射性セシウムが残留しています。そのため、乾燥した日に強い風が吹けば、表面の放射性物質を含む土が舞い上がる可能性がありますが、目に見えるほど大量の土が洗濯物に付着することはないでしょうから、外に干したからといって、健康に影響が出るほどの被ばくにつながることはありません。しかし、室内に放射性物質をなるべく持ち込まないようにするために、風の強い日は、外に干すのを避けるようにする、洗濯物を室内に取り込む前によく払うようにするといった花粉対策と同じ対処法を心がけるとより安心です。

[掲載日] 2011-03-20

[改訂日] 2011年04月10日改訂 2011年04月28日改訂 

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広島・長崎で起きた原爆と福島原発で起きている事故は同じなのですか?

広島・長崎の原爆は核分裂反応が空中で起き、なにもさえぎるものがない状態で、大量の放射性物質が地上に降り注ぎました。チェルノブイリの事故では、核分裂反応が暴走して原子炉が爆発し、最終的には火災によって、原爆を上回る量の放射性物質がまき散らされました。これに対して、今回の福島原子力発電所では地震直後に原子炉が自動停止し、核分裂反応はその時点で止まっています。ただ、原子炉と燃料貯蔵プールの冷却機能が失われたために核燃料が過熱して一部損傷し、放射性物質の放出が起きているのです。各地で観察されている環境放射線量(大気中や降下物の放射線量)の測定結果の推移より、最初の数回の水素爆発で放射性物質が環境に放出された直後に放射線量が急激に増加し、その後は徐々に減少(降雨により一時的に増加している場合もあります)していることから、原発からの放射性物質の大気への放出はほぼ止まっていると考えられます。原子力発電所周辺の土地の利用を制限するかどうかは、その場所に降った放射性物質の種類と量によって決まります。これ以上、大規模な放出がなければ、何らかの制限が必要になったとしても、チェルノブイリのように広範囲・長期間に及ぶことはないと思われますが、今後の事故の状況展開を注視する必要があります。いずれにしても、政府は、しっかりとした汚染調査を実施し、その結果をもとに判断する必要があります。

[掲載日] 2011-03-22

[改訂日] 2011年04月10日改訂 

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線量と線量率のちがいは?

今回の原子力発電所の事故に伴う放射線の数値は、時間あたりのマイクロシーベルト(マイクロシーベルト毎時、マイクロシーベルト/時間、マイクロシーベルト/h)と表現されているのに、この「時間あたり」を飛ばして議論されることが見受けられますので、注意してください。放射線の健康影響は、一定時間当りの線量(線量率)がどれくらいかによって現れ方が違ってきます。総被ばく線量が同じでも、短時間で一度に被ばくする場合と長い時間かかってじわじわと被ばくする場合では、後者の方が影響の程度が低いことが突然変異の誘発などの実験で報告されています。

[掲載日] 2011-03-24

[改訂日] 2011年12月28日改訂 

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放射線の安全規制値はどのようにして決められているのですか?

放射線安全規制値は、過去50年以上にわたって科学者がおこなった原爆被ばく者などの疫学調査および放射線の生体影響研究で得られた膨大な研究成果を、国連(UN)および国際放射線防護委員会(ICRP)などの専門家が収集して解析し、定期的(およそ10年ごと)におこなわれる放射線の人体への影響に関する勧告をもとに導きだされます。この勧告を受けて国際原子力機関(IAEA)等が、さらに検討して、安全のための規制値を国際的に提言します。その提言を受けて各国が自国の判断で規制値を定め法制化しています。我が国もこの勧告を受入れ安全規制値を作成しています。その安全規制値は、一般人に対して年間1,000マイクロシーベルト(=1ミリシーベルト)、放射線業務従事者に対して年間2万マイクロシーベルト(=20ミリシーベルト)とされています。放射線の影響は、ある一定の線量以上を浴びたときにだけに現れる「確定的影響」と、どんなに低い線量の被ばくであっても被ばく線量に比例して影響が現れると仮定されている「確率的影響」に分けられています。確定的影響が10万マイクロシーベルト(=100ミリシーベルト)以下では現れるという報告はありません。一方、発がんや遺伝的影響は確率的影響といわれ「どんなに低い線量の被ばくであっても被ばく線量に比例して影響が現れる」と仮定されています。しかし、実際は、疫学研究でも実験研究でも、10万マイクロシーベルト(=100ミリシーベルト)以下の被ばくで、統計的に有意な影響が観察されたことはありません。したがって、この10万マイクロシーベルトが人に健康影響を及ぼさない最少の放射線量として安全の目安とされています。この規制値が疫学調査研究や実験の結果で人体に影響が現れない10万マイクロシーベルト(=100ミリシーベルト)より小さい値なのは、より一層安全側にたって規制するという厳しい考えを採用しているからです。一般人に対する規制値である年間1,000マイクロシーベルト(=1ミリシーベルト)は自然放射線量とほぼ同じレベルです。自然放射線とは、宇宙線、大地、空気、および食品や水に由来する放射線で、その量は、地域や標高などによって異なりますが、日本での平均はおよそ1,400マイクロシーベルト(=1.4ミリシーベルト)です。標高が高い地域では宇宙線により、花崗岩が多い地域では大地からの放射線により自然放射線量が高くなります。 したがって、一般人に対する規制値である年間1,000マイクロシーベルト(=1ミリシーベルト)というのは、「放射線事業者に対して放射線業務を行なうにあたっては、一般人の生活地域に対して放射線量が自然放射線レベルをこえないように保ちなさい」という意味であると言い直すことができます。国際放射線防護委員会(ICRP)が、福島原発の事故に対して放射線防護の考え方に関するコメントをだしました(http://www.icrp.org/index.asp、 (参考資料)。その内容では、従来とおり2万-10万マイクロシーベルト(=20-100ミリシーベルト)の線量枠内の線量に設定して防護を徹底するように勧告しています(ここから世界各国の屋内退避、避難等の基準に関する参考資料が入手できます)。

[掲載日] 2011-03-27

[改訂日] 2011年03月30日改訂 2011年04月10日改訂 2011年12月28日改訂 

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放射線体表汚染と放射線被ばくはどうちがうのですか?

「放射線体表汚染」とは、放射性物質(ヨウ素131やセシウム137など)が身体の表面に付着することです。今回のような原発事故の際に、高熱により核燃料棒の破損が生じた場合、気体となって飛んでいく核分裂生成物のうち、半減期8日のヨウ素131や半減期30年のセシウム137等の放射性物質が、気流とともに拡散し地表に降下してきます。このような時に人が屋外にいると、衣服や頭髪や露出している皮膚等にヨウ素131やセシウム137等の放射性物質が付着することになります。「放射線被ばく」には大きく分けて「外部被ばく」と「内部被ばく」があります。外部被ばくは、体の外にある放射線源からの被ばくです。内部被ばくは、体内に取り込んだ放射性物質によって身体の内側から放射線を浴びることをいいます。放射性物質は、気体の放射性物質を吸い込む、あるいは、放射性物質を含んだ飲料水や食物を飲食することによって体内に取込まれます。また、創傷面が露出していると、そこから放射性物質が体内に侵入する可能性が高まります。従って、放射性物質で身体を汚染させない、放射性物質を体内に取り込まないようにすることが被ばくの機会を減らすために有効です。 今回の福島第一原発事故では、屋内退避地域や局所的に著しく高い放射線、放射能が検出された地域を除けば、特別な対策をとらなくても、健康に影響が出る心配はありません。しかし、無用な被ばくを避けるために日頃から以下のようなことに心がけてください。まず、屋外から家の中に放射性物質を持ち込まないために、
(1)不要・不急の外出を控える。
(2)不必要に雨にあたらない。
(3)帰宅時に上着を脱ぎ、付着している微粒子を払い落とす。

[掲載日] 2011-03-27

[改訂日] 2011年04月07日改訂 

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野菜や魚介類など飲食品の汚染が報告され危険度の目安として暫定基準値が使われていますがこれはなにですか?

我が国には、これまで野菜や水などの飲食物に対する放射性物質による汚染の明確な規制基準値がありませんでした。そのため、厚生労働省は、平成23年3月17日に、食品衛生法の観点から飲食物として摂取することが許される放射性物質濃度について暫定規制値を定めました(平成23年4月5日改訂) (参考資料)。この値は、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告を受けて原子力安全委員会が策定した原子力防災指針の「飲食物の摂取制限に関する指標」(参考資料)を参考にして作られたものです。この規制値は、「1年間その放射能濃度の水や食物を摂取し続けたときに全身が被ばくする線量(正確には実効線量)が5mSv以下、ヨウ素の場合は甲状腺が被ばくする線量(正確には等価線量)が50mSv以下」という考え方に基づいて決められています。また、単一の食物ではなく、さまざまな食物を食べたときの合計値としてこの規制値以下になるように決められています。具体的には、摂取制限すべき放射性物質として、放射性ヨウ素、放射性セシウム(137および134)、ウランおよびプルトニウムの4種をえらび、対象とする食品として、放射性ヨウ素については、(1)飲料水、(2)牛乳・乳製品、(3)野菜類(根菜と芋類を除く)および(4)魚介類(4月5日追加)の4品目、放射性セシウムについては、(1)飲料水、(2)牛乳・乳製品、(3)野菜類、(4)穀類、(5)肉・卵・魚・その他の5品目、ウランとプルトニウムに関しては、(1)飲料水、(2)牛乳・乳製品、(3)野菜類、(4)穀類、(5)肉・卵・魚・その他に(6)乳幼児用食品を加えた6品目について定められています。
放射性ヨウ素の場合、(1)飲料水と(2)牛乳・乳製品の規制値は、1キログラムあたり300ベクレル、(3)野菜類と(4)魚介類の規制値は1キログラムあたり2,000ベクレルです。但し、(2)牛乳・乳製品については1キログラムあたり100ベクレルを超えるものは乳児用調整粉乳および直接飲用する乳として使用しないこととされています。
;放射性セシウムの場合、(1)飲料水と(2)牛乳・乳製品に対する規制値は1キログラムあたり200ベクレル、(3)野菜類、(4)穀類、および(5)肉・卵・魚・その他、に対しては1キログラムあたり500ベクレルです。詳しくは日本放射線影響学会がまとめた参考資料をご覧下さい。なお、農林水産省が発表している野菜および乳製品に関するQ&Aがhttp://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/seisan_situmon.html#gyunyu3に掲載されています。

[掲載日] 2011-03-27

[改訂日] 2011年04月04日改訂 2011年04月08日改訂 2011年12月28日改訂 

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放射線量や放射性物質での汚染情報でいろいろな単位が使われて混乱しています。シーベルトとベクレルはどう違うのですか?

ベクレルは、放射能の強さを示す単位で、放射性物質が1秒間に1回放射性壊変をする量を表します。放射性壊変が起きると放射線が放出されます。通常、ベクレル(Bq)は、単独で使われることは少なく、単位体積当たり又は単位重量当たりの放射能の強さを表すベクレル/リットル、ベクレル/kgなどがよく使われます。

[掲載日] 2011-03-27

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福島原発事故に伴う人への放射線リスクはどのくらいと推測されるのですか?

福島第一原発の近辺を除けば、放射線リスクは放出された核分裂生成物の降下物による汚染に起因します。今回の福島第一原発事故のリスクを推測する参考事例としてチェルノブイリとスリーマイル島の事故を引用していますが、核分裂生成物による汚染は、実はそれより以前の方がかなりひどいということも思い起こす必要があろうかと思います。1950-60年代、米国などの国連の安全保障理事会常任理事国が大気圏内核実験をくり返し行ったため世界中の大気が汚染され、世界平均で1平方メートルあたり74キロベクレル(UNSCEAR2000 ANNEX C)の放射性セシウム(セシウム137)が降下していました。また、日本の国土にも福島第一原発事故以前の通常検知されていた量(1平方メートルあたりおおよそ0.02~0.2ベクレル)の約1,000~1万倍(1平方メートル当たり200~2000ベクレル)の放射性セシウムが降下していました。しかもその汚染は核実験が禁止されるまで10年位続いていました(参考資料: Igarashi Y et al, J Environ Radioactivity, 31:157-169, 1996.)。この過去の事実を広く知ってもらうことも不安を和らげるために役立つのではないかと思います。ちなみにチェルノブイリの時も短期間ですが、福島第一原発事故以前の通常検知されていた量の約1,000倍の放射性セシウムが降下していました。現在50-60歳代以上の人は皆これらの被曝を経験していることになります。この人達にこれらのことによって健康影響がでているということはありません。くり返しますが、核分裂による放射性同位元素の世界規模での汚染は、福島第一原発事故以前の通常検知されていた量の1,000倍程度の放射性セシウムによる汚染を10年間、すでに経験ずみなのです。勿論、このことが安全性を確約するものではありませんが、もし、影響があったとしても、そのリスクは非常に少ないと思われます。どのくらい少ないのかを正確に理解するためには低線量放射線の生体影響研究の今後の進展を待たなければなりません。

[掲載日] 2011-03-27

[改訂日] 2011年04月06日改訂 

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プルトニウムから放出される放射線の生物影響はどんなものですか?

プルトニウム(Pu)には、代表的なものとして、Pu-238、Pu-239、Pu-240があります。Pu-238、Pu-239、Pu-240の半減期は87.7年、24,000年、6,560年ですから、減衰はあまり期待できません。いずれも、アルファー(α)線を放出します。α線というのは、X線やガンマ線のような電磁波ではなく、粒子が加速され、エネルギーを得て飛んでくる放射線で、α粒子とも言います。α粒子とは、ヘリウム元素の原子核に相当するものです。α線は大きなエネルギーを持っていますが、物質の中で飛ぶ距離(飛程といいます)が短いのが特色です。空気中でも数センチしか飛びませんし、紙1枚で遮へいすることができます。つまり、プルトニウムがあったとしても、身体から10センチも離れていれば、α線を被ばくすることはなく、身体との間に紙が1枚あればα線は遮へいされ、身体には届かないということです。ですから、プルトニウムが身体の外にあるときには、α線の被ばくを心配する必要はほとんどありません。しかし、一方、プルトニウムを口や鼻、傷口などから体内に取り込んでしまうと状況が変わります。体内ではα線は数μmしか飛ぶことができませんが、その間に大きなエネルギーを全て放出します。そのため、近くの細胞は大きな影響を受けます。したがって、プルトニウム(他のα線を放出する放射性物質も同じです)については、体内に取り込まないことが重要で、一般的には、外出からの帰宅時に、手洗い、洗顔、うがいなどの励行により体内への摂取を防ぐことができます。
今回、発表された福島第一原発敷地内での数値は1.2Bq/kgでした。もし仮にこの数値のプルトニウムが水道水に混入したとすると、水道水の摂取制限が行われます(飲料水に対するプルトニウムの暫定規制値は1Bq/kg)。しかしながら、成人がこの水道水を2.2リットル飲んでも約0.7マイクロシーベルトの被ばくにしかなりません(プルトニウム239が混入したとして、実効線量係数2.5 x 10-4を使用して算出)。 プルトニウムは非常に重い元素で、大気中へは拡散しにくいものですが、もし雨などで川から海へ流れて行っても、大量の海水で希釈されます。従って、原子力発電所のすぐそばで捕獲・養殖しない限り、魚介類、海藻類に取り込まれるプルトニウムはごく微量で食べても健康への影響はないと思われます。

[掲載日] 2011-04-04

[改訂日] 2011年04月06日改訂 2011年12月28日改訂