日本放射線影響学会 / THE JAPANESE RADIATION RESEARCH SOCIETY

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累積放射線量が屋内避難の目安の1万マイクロシーベルト(=10ミリシーベルト)を超える地域が報告されてきましたが避難する必要はないでしょうか?

文部科学省の平成23年4月5日発表の福島第一原発の20 km以遠の積算線量結果 (http://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detail/_icsFiles/afieldfile/2011/04/05/ 1304004_040510.pdf) によると、平成23年4月4日午前中までの空間線量が一般人に許される規制基準値(1,000マイクロシーベルト(1ミリシーベルト)/年)を超える2,000~11,000マイクロシーベルト)地域が数ヶ所出始めていました。この規制基準値は、生物学的見地からいえばまだ健康影響が憂慮される線量(10万マイクロシーベルト(100ミリシーベルト))になるまでに10倍程度の余裕がありますが、このままの状態が続くことは好ましくありません。この目安は、国民の安全を守るために国が自ら制定したものですから、国と地方自治体はデータを遅滞なく発表するに留まらず、速やかにその内容を説明し、住民に対して避難・屋内退避などの具体的な行動を指示する責任があると思います。現在は、原発事故現場からの放射性物質の大量な飛散はないものの福島第一原発の20km以遠の各地でも、地域によっては積算線量が2万マイクロシーベルト(20ミリシーベルト)/年を超える地域が出る可能性が出てきました。これは、風向きや地形などの違いで放射性物質の飛散状況が違うからです。そこで、政府は、平成23年4月11日に新たな「計画的避難区域」を設定するという考え方を公表し、4月22日に政府は「計画的避難区域」および「緊急時避難準備区域」の設定を発表しました(参考資料)。(http://www.meti.go.jp/press /2011/04/20110422004/20110422004-2.pdf)

【計画的避難区域】
1.基本的考え方:
事故発生から1年間の期間内に積算線量が2万マイクロシーベルト(20ミリシーベルト)に達するおそれのあるため、住民等に概ね1ヶ月を目途に避難を求める。
国際放射線防護委員会(ICRP)と国際原子力機構(IAEA)の緊急時被ばく状況における放射線防護の基準値(年間2万マイクロシーベルト~10万マイクロシーベルト)を考慮する。
2.区域の範囲(詳細は参考資料2):
飯舘村(全域)、川俣町の一部、葛尾村(20 km圏内を除く全域)、浪江町(20 km圏内を除く全域)、南相馬市の一部

【緊急時避難準備区域】
1.基本的考え方:
福島第一原子力発電所の事故の状況がまだ安定していないため、今後なお、緊急時に屋内退避や避難の対応が求められる可能性が否定できない状況にある。このため、緊急避難準備区域においては、住民に対して常に緊急的に屋内退避や自力での避難ができるようにすることが求められます。
2.区域の範囲(詳細は参考資料2):
広野町・楢葉町(20 km圏内を除く全域)・川村町(20 km圏内を除く全域)・田村市の一部・南相馬市の一部  と発表されています。 つまり、屋内退避区域で「計画的避難区域」でない地域の住民に「緊急時退避準備区域」とした上で「自主避難」を求めています。しかし、これまでの被ばく事故等の経験から健康影響がでないとされている許容線量値(2万マイクロシーベルト(20ミリシーベルト)/年)に達するまでにまだ余裕がありますから、住民の皆様は落ち着いて行動してください。 平成23年6月16日、現地対策本部は、計画的避難区域および警戒区域の外の一部地域で、事故発生後1年間の積算線量が20ミリシーベルトを越えると推定される地点が存在していることを受け、これらを、特定避難勧奨地点としました。これらの地点では、計画的避難区域と違って、地域全面に線量の高い地域が広がっているわけではないため、住民に対し避難を指示することはありませんが、妊婦や子供のいる家庭等に対しては避難を促すよう自治体と相談していくとしています。さらに、平成23年9月30日には、緊急時避難準備区域を解除し、各市町村の復旧計画を最大限支援し、住民の帰還に向けて除染など万全の対応をするとしています。したがって、現時点までに避難指示が出ていない地域では、避難の必要はありません。

また、平成23年12月6日、今後の警戒区域・計画的避難区域の見直し基準が政府から発表されました。それによると、
1【解除準備区域】 年間推定放射線量が20ミリシーベルト未満の区域。区域に指定後、早ければ来春にも指定解除。
2【居住制限区域】 年間推定放射線量が20~50ミリシーベルト程度の区域。20ミリシーベルト未満への減衰が数年程度見込まれる区域。
3【長期期間困難区域】 年間推定放射線量が50ミリシーベルト以上の区域。20ミリシーベルト未満への減衰が5年以上見込まれる区域。

[掲載日] 2011-04-06

[改訂日] 2011年04月12日改訂 2011年04月26日改訂 2011年12月28日改訂 

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福島県の教員です。現在、福島県の福島市、郡山市などは1~3マイクロシーベルトぐらいの値で推移しています。中・高校生は原発事故以来自宅退避のところが多いのですが、6日には小中学校・8日は高校も始業の予定です。外での体育の授業や、クラブ活動(野球やサッカー)などは大丈夫でしょうか。また、グラウンドの土などに対しても何らかの注意が必要でしょうか。

平成23年4月19日に文部科学省から福島県および教育委員会に対して、「福島県内の学校の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について」(参考資料)という通知が出されました。学校での授業やクラブ活動などは、この通知に従って頂けば問題ありません。この通知では、校庭・園庭における放射線量(空間線量率)が3.8マイクロシーベルト毎時以下であれば、校舎・校庭等を平常通り利用して差し支えない、それ以上の場合は校庭・園庭での活動を1日あたり1時間程度に制限することが適当されています。この「3.8マイクロシーベルト毎時」は、学童、生徒の校庭・園庭等屋外での活動時間を8時間、屋内での活動時間を16時間と考え、また、屋内(正確には木造家屋の1階または2階)では放射線量が40%になるという仮定に基づいて計算したときに、年間被ばく線量が20ミリシーベルト以下になる線量です*注1。この線量は、国際放射線防護委員会(ICRP)勧告に記載されている「非常事態が収束した後の一般公衆における参考レベルとして、年間1~20ミリシーベルトの範囲とすることが適切」という勧告に基づいて設定された値です。この値が設定された理由は、これまで長年にわたる疫学調査や実験の結果で、発がんなど何らかの健康影響が認められるのは100ミリシーベルト以上の線量を被ばくした場合で、20ミリシーベルトの被ばくで健康影響が現れることは確認されていないからです。ただし、ICRPの勧告でも、事態が収拾したら速やかに一般人の被ばく規制値1ミリシーベルトに近づける努力をすることが示されています。その意味で文部科学省は、その通知の中で、「この措置は夏季休業終了(おおむね8月下旬)までの期間を対象とした暫定的なものとする」と明記するとともに、文部科学省、首相、内閣官房なども「長期的に線量を下げる対策を行なう」と公言していますが、その対策が遅滞なく実施されることが重要です。
なお、同じ通知の中に「児童生徒等が受ける線量をできるだけ低く抑えるために取り得る学校等における生活上の留意事項」が示されていますので、少しでも被ばく量を下げるために参考にされるとよいでしょう。いずれの行動も必ずおこなわなければ放射線の健康影響が生じるということではありませんが、

(1)手洗い、洗顔、うがい
(2)土や砂を口に入れない注意(乳幼児の砂場などの利用を控える)
(3)登校・登園時、帰宅時に靴の土を落とす、衣服に付着した細かな土、埃などを払いおとす
(4)風が強いときや土埃が多い時は窓を閉めるなどに気がけることで被ばく線量をさらに下げることができます。また、土ほこりの飛散の対処法としては、水撒きや防塵剤である塩化カルシウムやキープウエット(日本銀砂(株))などの散布も有効と考えられます。

*注1:3.8×8×365+3.8×0.4×16×365=11.1+8.8=19.9(ミリシーベルト)

[掲載日] 2011-04-06

[改訂日] 2011年04月28日改訂 2011年12月28日改訂 

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関東地方に住んでいます。雨に濡れても健康には問題ないと言われていますが、雨の降る屋外で子供にスポーツなどをさせるのが心配です。本当に安全なのでしょうか。

茨城県水戸市の例をあげると、雨水中のヨウ素131の濃度は、最も濃かった時(平成23年3月23日)が約5,000ベクレル/kgで、平成23年3月末の雨は約500ベクレル/kg程度でした。雨の中での被ばく線量の評価は難しいのですが、仮に1,000ベクレル/kgの濃度のヨウ素131が含まれる雨の中でスポーツをする場合を考えてみます。ここでは、成人よりも被ばく線量が大きくなる子供(1~4才の幼児)を想定します。土砂降りの雨が降っていて、その雨(比重を1と想定)をコップ一杯(200ミリリットル、0.2 kg)飲んだ子供(幼児)の甲状腺等価線量(内部被ばく線量)は、1,000(ベクレル/kg)×0.2(kg)×1.5/1,000(ミリシーベルト/ベクレル、原子力安全委員会環境放射線モニタリング指針2008)=0.30ミリシーベルト(=300マイクロシーベルト)になります。実際はこんなに雨水を飲むこともないでしょうから、これよりはるかに小さな値となります。さらに、外部被ばくについて考えると、その濃度の水中に1時間ドップリ浸かっていても0.1マイクロシーベルト以下の被ばくですので問題になりません。「発がん」自体は放射線を浴びなくても起きうることなので、「絶対に影響が出ない」とは言い切れないのですが、科学的見地から、上記のように極端な仮定でも放射線被ばくが甲状腺がんの原因となるとは考えられません。

[掲載日] 2011-04-06

[改訂日] 2011年12月28日改訂 

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福島原発から放射性物質が飛散し、地面を汚染していると聞きますが、井戸水や水道水にどのくらい混入するのですか?

雨水が地下に浸透することによって地下水となります。その際、雨水が地下に浸透して地下水面に達するまでに移動する地下空間を通気層*注1といい、また、地下水面下で地下水が流れている空間を帯水層と呼びます。従って、雨水中の放射性物質が地下水に混入するまでの時間は、通気層を構成する土壌と放射性物質の相互作用の程度によって決まることになります。放出された放射性物資のうちで水に溶けて陽イオンとなるセシウム137は、土壌に強く吸着され地表の土壌に留まりますので地下水に混入することはほとんどありません。一方、水に溶けて陰イオンとなるヨウ素131などは、雨水と一緒に土中に染み込みますが、核種が地表から地下水面まで移動するにはかなり時間がかかります。その間に半減期が8日間と短いヨウ素131は減衰してしまい地下水に混入する量はごくわずかになります。このように、地下水では土壌への吸着と移動時間の長さが雨水中の放射性物質の低減に作用します。したがって、河川水を原水としている水道水よりも、地下水の方が安全と言えます。また、水道水は、原水が何であるかによって異なりますが、地下水を原水としていれば、前述したように安全ですし、河川水を原水としている場合でも浄水場で一般的に使われている砂ろ過処理が行われていれば、セシウム137のような陽イオン核種はほとんど除去されます。ヨウ素131のような陰イオンは、砂ろ過では除去されませんので、原水が取水されてから水道水として給水されるまでの時間の長さによって放射性物質量が異なることになります。水を砂ろ過の後、活性炭処理するとヨウ素131の50%程度は除去されます。さらに、心配であれば、市販されている陰イオン交換樹脂を含むフィルターがついた浄水器を通すとほぼ全量が除去できるようです。ただし、陰イオン交換樹脂がヨウ素で飽和してしまえば除去はできなくなりますので注意してください。ゼオライトも効果があります。なお現実には、県あるいは市町村の水道水供給組織によって厳密な放射能モニタリングが行われており、多くの場合その結果も公表されています。現在は検出下限値に近い値が報告されており、水道水中の放射性物質に関し特段の心配は必要ありません。家庭用の井戸を利用している場合、水道水のモニタリング結果も参考になると考えます。

*注1:通気層は地下水面よりも上方に位置する地下空間で空気と土壌水が混在した層ですが、帯水層は土壌や岩盤の空間が地下水で満たされた層です。

[掲載日] 2011-04-12

[改訂日] 2011年05月10日改訂 2011年12月28日改訂 

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飯館村で農業をしています。放射能測定の結果、農地が高濃度の放射性セシウムで汚染されていることがわかりましたが、ここで農業を続けることができるでしょうか?

ヨウ素131は、半減期が短いので放射性物質が飛来しなくなったあと、数ヶ月後には壊変して影響はなくなります。セシウム137は、半減期が30年と長いのですが、土壌に強く吸着されます。そして、その結合は、ほとんど離れない強固なものですから、ある程度時間がたてば、セシウムは土壌と結合することで徐々に植物へも移行しにくくなります。したがって、飯舘村に限らず、外部被ばくを少なくするとともに、セシウム137で汚染されたちり・ほこりなどを体内に取り込んで内部被ばくをしないために表層5cm程度を削って土を入れ替えることが安全に農業を続けるために必要です。いずれにしても、削った土を安全に処分する必要がありますので、原発からの放射能の放出が収束した後に、政府は専門家の意見を取り入れて被ばく防護処置を速やかに実施する必要があります。

[掲載日] 2011-04-12

[改訂日] 2011年12月28日改訂 

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福島原発事故での土壌汚染とチェルノブイリ事故による居住制限地域の土壌汚染は中身が違うと聞きました。どのように違うのでしょうか。

2つの事故では原子炉の破壊具合が異なるため、飛散した放射性物質の種類と量(割合)は大きく違っています。チェルノブイリでは原子炉が完全に破壊され、内容物が爆発的に大気中へ飛散しました。一方、福島では原子炉格納容器そのものは何とか原形を留めましたので、内容物が直接大気に触れることはありませんでした。原子炉内で核分裂によってできる放射性物質は、それぞれ気化する温度が異なりますので、数百℃程度といった比較的低温で気化する物質(ヨウ素やセシウム)はどちらもほぼ同じような割合で大気中に放出されましたが、高温でないと気化しない物質(ストロンチウムやプルトニウムなど)はチェルノブイリの方がはるかに多く放出されています。放射性ストロンチウムやプルトニウムは、内部被ばくの生体影響が大きい放射性物質ですから、その量の違いは被ばく影響に大きな差を生じさせる可能性があり、単純に放射性セシウムによる汚染濃度だけでチェルノブイリと福島が同じだとは言えません。参考までに、チェルノブイリ事故で移住の目安とされた濃度のセシウム137(1平方メートル当たり185キロベクレル)で汚染された土壌について、他の放射性物質の降下量がどのくらいになるかを試算して比較していますので、そちらを参照して下さい。

[掲載日] 2013-09-17

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福島原発からの汚染水問題でトリチウムが注目されています。トリチウムはベータ線放出で18.8eVとエネルギーも弱く、外部被曝は問題ない。内部被曝では、ガンマ線よりは強いが排出も早く、摂取量が少なければ必要以上に恐れる必要はないとのことのようですが、水素としてDNAに取り込まれたときに、そこに居座り、ベータ線を放出して遺伝子を傷つける、だから危険だ。あるいは、ベータ線を放出してHeとして居座り(実際にありうるのかどうか疑問ですが)、発ガンの元となる、二段構えでトリチウムは危険だ、という主張があります。 トリチウム排水が飲料水に混入することは考えにくいとしても、魚介類を介して経口摂取する可能性は十分にあり、有機体に取り込まれたトリチウムが尿中に排出されず、DNAに取り込まれ細胞に影響を与えることはありうるのではないかと感じます。このことについて教えていただけないでしょうか。

ご存知かと思いますが、ご質問のトリチウムはベータ線を出す放射性物質で、もともと宇宙線の関与などで生成されて自然界に存在しています。自然界の地球環境中の平衡量は1.5×1018ベクレル程度と見積もられていますが、実は、そこに地上核実験などによって人工的に作られたトリチウムの残存分が、いまだに環境中に2×1019ベクレル近く追加されているのが現実です。
良いかどうかは別として、これと比べれば、今回の福島原発汚染水で問題になっているトリチウムの総量は桁違いに少ないのも事実です。しかし、濃度が高ければ被ばくが多くなりますから、局所的な濃度には注意が必要です。なお、ご質問にあるとおり、トリチウムのベータ線はエネルギーが弱く透過性が低いので、考えなくてはならないのは内部被ばくです。これまでの研究から、数百ミリシーベルトを越えるような被ばくとなる高濃度のトリチウムを摂取すれば、他の放射性物質と同様にがんや寿命短縮が起きることが知られています。
トリチウムは、通常、環境中でHTO(水のHの一つがトリチウムになっている)となり、一部は生物の体内で有機物分子の水素と置き換わります(これを「有機結合型トリチウム」と言います)。HTOの体内半減期が1~2週間(文献により4~18日)とされるのに対し、有機結合型の体内半減期は40日程度(ごく一部はもっと長い場合がある)とされ、有機結合型の方が体内の半減期が長いのは事実ですが、他の放射性物質と比べて特別に長いわけではありませんし、「同位体置換反応」や代謝があるために、そこにとどまり続けるということもありません。
体内に取り込まれれば、HTOでも有機結合型でも(たとえ1分子でも)、トリチウムからのβ線がDNAに損傷を与える可能性はあります。トリチウムが崩壊してヘリウムになったとして、そのまま、存在し続けて生体影響が残るかどうか?は、良くわかりません。ただし、「二重の害」という主張の「真に科学的な」根拠は聞いたことがありません。
結局のところ、トリチウムでも問題になるのは、他の放射性物質や放射線と同じく摂取量(この場合は濃度)であるという事です。ちなみに、放出濃度限度である「6万ベクレル/L」は、その濃度のトリチウムを含む水を1年間飲み続けた時に1mSvの被ばくが想定される濃度です。ちなみに、経口で取り込んだ時の実効線量係数は、影響が大きい有機結合型で4.2x10(-8乗)ミリシーベルト/ベクレルで、この値はCs137の1.3x10(-5乗) ミリシーベルト/ベクレルに比べて1/300以下であり、同じベクレルであればセシウムよりも生物影響がはるかに小さいと考えることができます。

[掲載日] 2013-09-17